吉田敏浩(ジャーナリスト)

公開日: 更新日:

6月×日 梅雨に入った。今日も何かと原稿を書いている。雨音が耳に届く。

「ジャングルで隠れている間は、枯れ葉で屋根を作るんだけど、あっという間にびしょびしょになっちゃう。だからこんな雨の日は、村の家族が、お母さんが心配になるんだ」

国境の医療者」(メータオ・クリニック支援の会編 新泉社 1900円+税)の一節が思い浮かぶ。ミャンマーと国境を接するタイの町メソット、難民のための無料診療所メータオ・クリニックでの、あるカレン人青年のつぶやきだ。ミャンマーでは、多数派のビルマ人中心の政府と自治権を求めるカレン人など少数民族の間で、内戦が収まらない。主にカレン人の難民が10万人以上、タイに逃れている。ミャンマー側でもそれ以上の国内避難民が森に隠れ住む。離ればなれになった母親たちの身を案じる青年の言葉を反芻しながら、アジアの遠い雨の森を心に描く。

6月×日 この青年のつぶやきを書き留めたのは、NPOメータオ・クリニック支援の会から国際ボランティアとして派遣された日本人女性外科医だ。その手記には、医療設備が乏しいなか、地雷で手足を失った患者の手当てなどに精魂を傾け、難民キャンプ出身の現地医療スタッフとも対話を重ねる日々がつづられている。国境地帯で懸命に生きる人たちとの、時に互いの琴線に触れる交わり。そして書き留められた一人ひとりの言葉と姿。何度も読み返したくなる等身大の群像が刻まれている。

6月×日 きたる参院選の自民党公約が発表された。「日米同盟をより一層強固にし、ゆるぎない防衛力を整備する」とある。しかし実態は、トランプ大統領言いなりの米国製兵器の爆買いに象徴される対米従属にほかならない。安倍政権は米国に従って「戦争のできる国」づくりにひた走る。小泉親司著「今日の『日米同盟』を問う」(学習の友社 1800円+税)は、自衛隊の増強、米軍基地の強化、海外派兵を想定した日米共同訓練の拡大など詳細な分析に基づき、危うい真相を抉り出し警鐘を鳴らす。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  4. 4

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  5. 5

    timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願

  1. 6

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  2. 7

    国民民主党“激ヤバ”女性議員ついに書類送検! 野党支持率でトップ返り咲きも玉木代表は苦悶

  3. 8

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  4. 9

    波瑠のゴールインだけじゃない? 年末年始スクープもしくは結婚発表が予想される大注目ビッグカップル7組総ざらい!

  5. 10

    アヤックス冨安健洋はJISSでのリハビリが奏功 「ガラスの下半身」返上し目指すはW杯優勝