大森望(書評家・翻訳家)

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6月×日 急に暑くなってきたので、上半身はTシャツに衣替え。アイドル現場用のオタクTシャツを別にすると、ワードローブの中心は各種SF系Tシャツ。ヴォネガット「チャンピオンたちの朝食」とか、バージェス「時計じかけのオレンジ」とか、初版本のカバーイラストをプリントしたOut of Print ブランドのを愛用してますが、ここ数年、早川書房もTシャツ販売に参入。いろいろある中で、最近の個人的なヒットは、昨年世を去ったSF界のレジェンド、ハーラン・エリスンの短編集「世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハヤカワ文庫版)の現行カバー柄。おしゃれ過ぎてなかなかSFシャツだと気づかれないという問題はあるが、マニアックなアイテムとしては申し分ない。

 そのエリスンに関しては、つい先月、国書刊行会〈未来の文学〉叢書から、非SF短編ばかりを集めた若島正編の「愛なんてセックスの書き間違い」(若島正、渡辺佐智江訳 2400円+税)が出たばかり。収録11編はすべて本邦初訳。犯罪小説や不良少年もの、ラジオのDJもの、作家内幕ものなど中身はいろいろだが、おおむね20代から30代の頃に書かれた短編で、ありあまる才気と自信がみなぎり、どれもたいへん面白い。

 一方、版元からきょう届いた「危険なヴィジョン『完全版』1」(早川書房 1200円+税)は、そのエリスンが編纂し、1967年に出た伝説的な巨大SFアンソロジーの邦訳第1巻。ただの本じゃなくて革命だと編者エリスンが序文で豪語するとおり、当時最先端の作家たちが全力投球する野心的な書き下ろし33編を集める。中身は当然、傑作・怪作・実験作が目白押し。

 今から30年前、それを3分冊にした邦訳の1冊目が出たものの、翻訳が大変すぎたのか、続巻は頓挫し、幻の本となっていた。ところが、Tシャツの権利をとるべくエリスン側代理人に連絡したところ、あの続きはどうなっているのかと催促され、急遽、全3巻の3カ月連続刊行が決まったんだとか。まさにTシャツから駒。1巻目の収録作も、今回、多くが新訳され、面目を一新している。

【連載】週間読書日記

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