著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「果てしなき輝きの果てに」リズ・ムーア著、竹内要江訳

公開日: 更新日:

 これはまず、姉妹小説だ。姉のミカエラ(ミッキー)と妹のケイシーは、幼いときから祖母のジーに育てられる。裕福な暮らしではないが、それなりに幸せな幼少時代を過ごしてきた。物静かな姉と、活発な妹の、さまざまな姿が回想の中できらきらと描かれていく。

 この幼い姉妹の蜜月がよく、その描写が群を抜いているが、それを読んでいると、なんだか胸が痛くなってくる。というのは、いま、姉妹の状況が激変しているからだ。妹のケイシーはドラッグに溺れ、娼婦となっているのだ。警官になった姉のミッキーはパトロールの車の中から時折、街角に立つ妹を見る。そんな関係になっている。

 だから本書は、ドラッグがいかに人の心をむしばんでいくかという薬物依存を描く小説であり、姉のミッキーを取り巻く組織の腐敗を描く警察小説でもある。

 物語は、線路脇でドラッグ中毒者の死体が発見されるところから始まり、行方がわからなくなった妹と、犯人を追いかける姉の苦闘を描くかたちで進んでいく。したがって本書はもちろんミステリーである。あ、そうか。詳しくは書けないが、これは家族小説でもある。

 姉の4歳の息子トーマスの父親は誰なのか、をすぐに明らかにしないなど、構成がいいので、どんどん物語に引きずり込まれていくのも特筆もの。脇役などの人物造形もよく、一気読みの傑作だ。

 (早川書房 2200円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  2. 2

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  3. 3

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  4. 4

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  5. 5

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  1. 6

    大炎上中の維新「国保逃れ」を猪瀬直樹議員まさかの“絶賛” 政界関係者が激怒!

  2. 7

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  3. 8

    維新の「終わりの始まり」…自民批判できず党勢拡大も困難で薄れる存在意義 吉村&藤田の二頭政治いつまで?

  4. 9

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  5. 10

    SKY-HI「未成年アイドルを深夜に呼び出し」報道の波紋 “芸能界を健全に”の崇高理念が完全ブーメラン