著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 現実の世界で生きづらいと感じている人間が「銀色の国」にやってくる。そこは、VRの世界だ。バーチャルリアリティー。ゴーグルをかけると、誰もがその国に行くことができる。現実を忘れることができる。いやそれは、彼らにとってもうひとつの現実だ。

 問題は、そのVRの世界が自殺へと導く悪魔の世界であることだ。そのことに気づくのが、自殺防止のNPO法人レーテの代表者田宮晃佑。かくて晃佑の探索が始まっていくことになる――という紹介では、この長編の美点は伝わらないかもしれない。

 そのVRを考えた人間の言い分と、巻き込まれる者の苦難と苦悩。そして「銀色の国」に入っていく人間の、驚きと不安と救済。それらが実に丁寧に描かれていくことをまず説明しておかなければならない。さらに探索する側にも、天才的なゲームクリエーターでありながら卑劣なワナにかかって業界を追われた男をはじめとして、晃佑を助ける者がいる。それらのドラマもダイナミックだ。いくつもの挿話が積み重なって、どんどん複雑に絡み合っていく。要するに、色彩感豊かな物語なのである。

 十半(マージャン牌を使って興じるブラックジャック)という遊びをさりげなく紹介する物語の余白もよく、逃げることはけっして悪いことではないというラストのメッセージもいい。ダメ押しは、何度も目頭が熱くなってくるドラマ作りだ。まことにうまい。

(東京創元社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    バタバタNHK紅白 高視聴率でも今田美桜、有吉弘行らMC陣は負担増「出演者個々の頑張りに支えられた」

  2. 2

    松山千春がNHK紅白を「エコひいき」とバッサリ!歌手の“持ち時間”に求めた「平等」の正当性を考える

  3. 3

    「将軍 SHOGUN」シーズン2も撮影開始 2026年は柄本明、平岳大ら海外進出する日本人俳優に注目

  4. 4

    ロッテ前監督・吉井理人氏が2023年WBCを語る「大谷とダルのリリーフ登板は準決勝後に決まった」

  5. 5

    菊池風磨のカウコン演出に不満噴出 SNS解禁でSTARTO社の課題はタレントのメンタルケアに

  1. 6

    ロッテ前監督・吉井理人氏が佐々木朗希を語る「“返事もしなかった頃”から間違いなく成長しています」

  2. 7

    矢沢永吉ライブは『永ちゃんコール』禁止で対策も…B'z『客の大熱唱』とも通じる“深刻な悩み”

  3. 8

    《国分太一だけ?》「ウルトラマンDASH」の危険特番が大炎上!日テレスタッフにも問われるコンプライアンス

  4. 9

    巨人オーナーから“至上命令” 阿部監督が背負う「坂本勇人2世育成&抜擢」の重い十字架

  5. 10

    現役女子大生の鈴木京香はキャピキャピ感ゼロだった