北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「人生がそんなにも美しいのなら」荻原浩著

公開日: 更新日:

 直木賞作家・荻原浩の漫画作品集である。あとがきを読むと、荻原浩はもともと漫画家を志していたという。ところが描いてはみたものの、うまくいかず、断念して広告制作会社に就職。コピーライターとして働いたのちに作家となって直木賞を受賞。(それからも順風満帆といっていい活躍をしていくが)60歳のときに若き日の夢を思い出して再挑戦し、ついに一冊の作品集を刊行、という経緯だったようだ。

 なんだ素人の手すさびか、と早とちりする人がいるかもしれない。そう思ってこの本を開くとびっくりする。8編を収録しているが、絵がうまいのはもちろんであるものの、絶妙な物語ばかりなのだ。

 困るのは、ネタをばらさないほうが絶対にいいので、詳しくは紹介できないことだ。たとえば、ファンタジー「猫ちぐら」はほのぼのしてくるし、SF「ある夏の地球最後の日」は予想外の展開が楽しいが、どちらも細かく紹介してしまうと、読者の興をそいでしまいそうなのである。黙ってお読みになることをおすすめしたい。

 冒頭の「大河の彼方より」は、流れついた瓶の中に入っていた手紙を読むと、想像を絶する冒険譚が語られていた、という一編だが、悠久の時の流れを感じる傑作だ。しかし好みで1編選べば表題作。漫画でなければ、この温かみは描けないのではないか。ラスト1コマが、特に素晴らしい。 (集英社 1200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異