著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「レッド・メタル作戦発動(上・下)」マーク・グリーニー&H・リプリー・ローリングス四世著 伏見威蕃訳

公開日: 更新日:

 共著者のH・リプリー・ローリングス四世は、アメリカ海兵隊の大隊長をつとめた元軍人。本書は、ハイテク軍事スリラーなので、軍事作戦の細部をレクチャーしてもらったと思われる。執筆はもちろん全部、グリーニーだ。

 冒頭は、台湾と中国の間に緊張が生まれ、アメリカと中国が一触即発の危機を迎える。さらに、軍内部にスキャンダルが起きて、アメリカ軍は大混乱。そういう話がどう展開していくのかなと思っていると、陰で極秘作戦を計画するロシアの話に移行していく。

 アフリカ、ケニアのレアメタル鉱山をロシアは狙っているのだ。その極秘作戦にアメリカとNATO軍はなかなか気がつかない。そしてようやく事の真相が判明して戦闘が始まっていくが、この大作のポイントはポーランド国内の陽動作戦である。

 ここに登場するパウリナに留意。彼女はワルシャワ大学の学生で、カフェで働いている。パウリナはポーランドの民兵組織である国土防衛隊に参加しているが、プロの兵士ではない。戦争に巻き込まれた祖国で、そのパウリナがいや応なく戦闘に立つ局面に注意。兵士のひとりと恋に落ちたときの胸の鼓動と、彼を失ったときの悲しみ――その濃い感情のドラマが行間から立ち上がってくる素晴らしさに注目したい。グリーニーのこういう一面を初めて読んだ。ただのハイテク軍事スリラーではないことを強調しておきたい。

(早川書房 各980円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景