「ゲット・バック・ネイキッド」藤本国彦著

公開日: 更新日:

 1970年の6月、ビートルズの最後のアルバム「レット・イット・ビー」が写真集付きのボックスセットとして発売され、高校生の身としては高価ではあったが思い切って購入。同じ年の夏には同名の映画も公開され勇んで出かけたが、見終わった時のなんとも言えない重苦しい気分を覚えている。4人のぎすぎすしたやりとりが全体に暗い影を落とし、どうしてこんなことになってしまったのだろう、と……。

 長年気になっていたあの映画の背景を明らかにしてくれるのが本書だ。メンバー4人が個々の活動を始めて求心力を失ったビートルズは、原点に立ち返る(ゲット・バック)べく、新たなアルバム作りとそれに伴う映画製作を行うことにした。この“ゲット・バック・セッション”は1969年1月2~15日(トゥイッケナム・スタジオ)、20~31日(アップル・スタジオ)で行われ、30日には有名なルーフトップ・コンサートが開かれた。

 本書はこの22日間に何が起きていたのかを、あらゆる資料を駆使しながら再現したもの。残された音源から当時の会話を文字に起こし、時にメンバー間の激しい言い合いなども生々しく伝えてくれる。

 なんとかバンドを一つにまとめようと努力するも、自分流儀を押しつけることに反発を買うポール。自分の曲を評価してくれないジョンとポールに苛立ちを隠さないジョージ。ヨーコとの関係を第一に考えるジョン。ほとんど口をきかず静観するリンゴ。それでも、曲作りは進んでいき、当初「ゲット・バック」と名付けられていたアルバムは、「アビイ・ロード」と「レット・イット・ビー」の2つに分かれて発表される――。

 70年当時は、ビートルズ解散の原因はオノ・ヨーコの存在に押しつけられていた感じだったが、本書を読むとそんな単純なものではないことがよくわかる。また当時の映画・アルバムがかなりバイアスがかかったものだったことも。来年にはピーター・ジャクソン監督による“ゲット・バック・セッション”の新編集映画が公開されるという。 <狸>

(青土社 2400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  2. 2

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  3. 3

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 4

    「べらぼう」大河歴代ワースト2位ほぼ確定も…蔦重演じ切った横浜流星には“その後”というジンクスあり

  5. 5

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  1. 6

    「台湾有事」発言から1カ月、中国軍機が空自機にレーダー照射…高市首相の“場当たり”に外交・防衛官僚が苦悶

  2. 7

    高市首相の台湾有事発言は意図的だった? 元経産官僚が1年以上前に指摘「恐ろしい予言」がSNSで話題

  3. 8

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  4. 9

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  5. 10

    高市政権の「極右化」止まらず…維新が参政党に急接近、さらなる右旋回の“ブースト役”に