著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「二百十番館にようこそ」加納朋子著

公開日: 更新日:

 就活に失敗した青年がいる。それだけならいくらでも取り戻せるが、青年はやる気を失い、部屋に引きこもってネットゲームをするだけ。しかも何年も。これでは親も怒りだす。

 というわけで、離島の館に放り込まれた青年の新たな日常が始まっていく。当座の生活費はもらったものの、それだけでは心もとない。そこで、自分と同じように「親に捨てられた子」を集め、家賃を取れば何とかなると算段。幸いに館は古びてはいるものの、部屋はたくさんあるので心配なし。できればゲームオタクばかりを集めれば、それも楽しいのではないか、とも考える。

 このあとの物語の方向は2つ。集まってきた引きこもりが問題児ばかりで、事件が続出すること。あるいは、17人の老人が住む島へ若者たちが入っていくわけだから、地元民との揉め事が頻発すること。どちらもいかにもありそうだ。しかし小説の名手・加納朋子が、そんなに簡単に予想される方向を選ぶわけがない。どちらでもないのだ。

 素晴らしいのは、若者たちがけっしてゲームをやめないこと。自分たちを結果的に離島に追い込むことになったゲームから身を引き、いわば「改心する小説」ではないのだ。以前と同じようにゲームに熱中するのである。しかも老人たちと交流し、仲間との絆をつくり、新たな自分を発見するかたちを描いていくのだ。物語の底を流れる謎が最後に明らかになる構成もいい。傑作だ。

 (文藝春秋 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか