著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「法廷遊戯」五十嵐律人著

公開日: 更新日:

 すごいな、一気読みだ。

 何よりも素晴らしいのは、新鮮であることだ。どこかで読んだことのあるような、という既視感がまったくない。生まれて初めて読む小説であるかのように、初々しく、真摯で、読むことの喜びにあふれている。

 妙な言い方になるが、法廷ミステリーを読んでいるような気がしないのである。それは、それ以外の要素がどんどん入りこんでくるからだ。児童養護施設で育った時代の回想があり、痴漢詐欺未遂の女子高生を見つける話があり、学生時代の模擬裁判があり、墓荒らしの老人や盗聴器を仕掛ける男までもが登場する。盛りだくさんだ。それらが混然一体となって立ち上がってくる。

 胸をナイフで刺されて死んでいる男がいる。ブラウス、スカート、両手を赤く染めて、すぐそばに立っている女がいる。それが第1部の終わり。全体の3分の1のところだ。

 ここから始まるスリリングな展開に注目。中心にあるのは、いったい何が起きたのかということだ。その見せ方が、つまりは構成が群を抜いて秀逸なので、ぐんぐん引き込まれていく。

 作者は本書でメフィスト賞を受賞してデビュー。本当にこれがデビュー作なのか。とても新人の第1作とは思えないほど躍動感に富んでいる。テーマは、法とは何か、罪とは何か、だ。その中心軸に向かってどんどん進んでいくダイナミズムが素晴らしい。

 (講談社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  2. 2

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  3. 3

    渡辺謙63歳で「ケイダッシュ」退社→独り立ちの背景と21歳年下女性との再々婚

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    米価高騰「流通悪玉論」は真っ赤なウソだった! コメ不足を招いた農水省“見込み違い”の大罪

  1. 6

    大阪万博は鉄道もバスも激混みでウンザリ…会場の夢洲から安治川口駅まで、8キロを歩いてみた

  2. 7

    悠仁さま「9.6成年式」…第1子出産の眞子さん、小室圭さんの里帰りだけでない“秋篠宮家の憂鬱”

  3. 8

    参政党議員「初登院」に漂った異様な雰囲気…さや氏「核武装」に対しゼロ回答で現場は大混乱

  4. 9

    ダルビッシュの根底にある不屈の反骨精神 “強いチームで勝ちたい大谷”との決定的な違い

  5. 10

    悠仁さま「友人とガスト」でリア充の一方…警備の心配とお妃候補との出会いへのプレッシャー