著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「どっちが殺す?」M・J・アーリッジ著 佐田千織訳

公開日: 更新日:

 とんでもないヒロインの登場である。背が高く、筋肉質で、引き締まったたくましい体をしている。革ジャンをまとい、ヘルメットをかぶってバイクにまたがるカッコいいヒロインだが、同時に自らの体にムチを振るう男を雇い、「もう一度」と要求しては叩かせる。セックスは求めず、求めるのは痛みだけ。

 ちなみに40歳手前、独身で恋人なし。ヘレン・グレースは、ハンプシャー警察のできる警部補であるので、部下の男性刑事たちにも慕われている。私生活についてはときどきのSM生活以外はあまり語られないので、ヘンだなと思っていると、ラストでとんでもないことが語られる。おお、それをたっぷりと書きたいが、ネタばらしになるのでぐっと我慢。

 事件は奇妙だ。2人組が次々と誘拐されるのである。恋人同士、仕事仲間、親子。監禁し、2人の間には1丁の拳銃が置かれる。銃弾は1発。相手を殺せば解放する、と誘拐犯は言う。水も食料もなし。やがて体力もなくなってくる。生き残るには相手を殺さなければならない。そういう地獄に追い込まれていく。

 奇妙なのは、被害者たちに共通項がないことだ。かくて、ヘレンは部下の刑事たちを指揮して捜査を始めていくが、この先は書かないほうがいい。書くことができるのは、物語を貫く熱量が半端ないこと。もう少しおとなしい展開にしないと、シリーズが続かないのではないか。それだけが心配である。 (竹書房 1300円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒

  4. 4

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  5. 5

    国分太一の不祥事からたった5日…TOKIOが電撃解散した「2つの理由」

  1. 6

    国分太一は会見ナシ“雲隠れ生活”ににじむ本心…自宅の電気は消え、元TBSの妻は近所に謝罪する事態に

  2. 7

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  3. 8

    「ミタゾノ」松岡昌宏は旧ジャニタレたちの“鑑”? TOKIOで唯一オファーが絶えないワケ

  4. 9

    中居正広氏=フジ問題 トラブル後の『早いうちにふつうのやつね』メールの報道で事態さらに混迷

  5. 10

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償