著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「チーム・オベリベリ」乃南アサ著

公開日: 更新日:

 オベリベリとは、現在の帯広である。この地を開墾した明治の晩成社の活動の日々を描いた長編で、この晩成社は実在した開拓団だ。晩成社の依田勉三、鈴木銃太郎、渡辺勝も、すべて実名で登場している。帯に「リアル・フィクション」とあるのはそういう意味だろう。

 ただし、物語は晩成社の幹部の側からは描かれない。勝の妻(そして銃太郎の妹)カネの目を通して描かれる。このカネは、明治の先進教育を受けたヒロインで、十勝原野に入ってからも開拓団の子供たちの教師となって、読み書きを教えたりする。

 酷寒に苦しみ、バッタに農作物を食い荒らされたり、気の遠くなるような労苦がカネを待っているが、しかしその悲惨な側面があまり強調されないのが特徴。豚の餌を食べることになっても、どこかに抜けるような明るさが漂っている。それはカネの夫、勝がひたすら陽気な男として描かれていることが大きい。この男、よく働くのだが、よく酒を飲む。底なしといっていい。現地で暮らすアイヌの人々を差別せず、ともに喜び、ともに飲む。その底抜けの明るさがカネを救い、物語を救っている。

 対して依田勉三は、ややかたくなな性格の持ち主として描かれていて、晩成社がけっして理想の開拓団ではないという側面が興味深い。十勝原野で生きたヒロインの一生を、鮮やかに描いた長編として読まれたい。 (講談社 2300円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    コメ増産から2カ月で一転、高市内閣の新農相が減産へ180度方針転換…生産者は大混乱

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  4. 4

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  5. 5

    ヤクルトのドラフトは12球団ワースト…「余裕のなさ」ゆえに冒険せず、好素材を逃した気がする

  1. 6

    小泉“セクシー”防衛相からやっぱり「進次郎構文」が! 殺人兵器輸出が「平和国家の理念と整合」の意味不明

  2. 7

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  3. 8

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  4. 9

    元TOKIO国分太一の「人権救済申し入れ」に見る日本テレビの“身勝手対応”

  5. 10

    “気分屋”渋野日向子の本音は「日本でプレーしたい」か…ギャラリーの温かさは日米で雲泥の差