著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「コンビニ兄弟」町田そのこ著

公開日: 更新日:

「テンダネス門司港こがね村店」という副題の付いた連作集である。このタイトル+副題だけで、だいたいの内容が推測できる、と言われるかもしれない。コンビニを舞台に「さまざまな人間模様」を描く連作集でしょ、と。その通りだ。

 しかし問題は、その「さまざまな人間模様」をどう描くのか、ということである。それがいちばん重要だ。驚いたのは、こんなにうまい作家だったのか、ということだ。これまで「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」や「52ヘルツのクジラたち」など、心に残る作品を書いてきた作家だが、まだ一部にぎくしゃくした感じが残っていたことは否定できない。それはブレークする直前の、“きしみ”のようなものであるので、気にはならなかったが、本書のなめらかさを見られたい。

 イケメン店長の造形はいささかやりすぎの感が免れないが、その兄(このキャラがいい)をはじめ、個性豊かな人物が次々に立ち現れ、色彩感豊かなドラマが展開するのである。

 6編を収録しているが、最初はコンビニ従業員を中心に描き、そこから徐々に「さまざまな客」に移行していくという構成もいい。

 女子中学生を描く第3話、老人と少年の交流を描く第4話など、常套的な話と言えなくもないが、それを丁寧に描くことで、胸に残る話に仕立てているのはうまい。

 もっと不器用な作家だと思っていたので、まことに意外な一冊である。 (新潮社 670円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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