著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「アンダードッグス」長浦京著

公開日: 更新日:

 いきなり、だ。車の前に男が飛び出してきて、えっと思うと、その男の後頭部が爆ぜる。どこからか銃弾が飛んできたのだ。こういうアクションシーンが頻出する。息つく暇なく連続するから、スリリングだ。

 物語は、1996年の暮れから翌年2月の春節まで。舞台は、返還直前の香港。イタリア人の大富豪から依頼された仕事は、香港の銀行から運び出される大量のフロッピーディスクと書類を強奪すること。そこには世界各国の要人たちの不正の記録がおさめられているという。依頼されたのは、農林水産省を追われた古葉慶太。格闘の訓練を受けたこともなく、銃をもったこともない素人が、なぜそんな大仕事を依頼されたのか、その事情はもっと後にならないとわからない。

 物語には、2018年に古葉瑛美が香港を訪れるくだりが随所に挿入されている。そこでは義父の古葉慶太が14年にマニラのホテル火災で亡くなったことが語られる。彼女が香港を訪れた事情は徐々に明らかになっていくが、このようにいくつもの謎をどんどん積み重ねて、テンポよく物語は進んでいく。

 アメリカ、ロシア、中国、イギリスなど、各国の諜報部が入り乱れるという錯綜した背景と、激しいアクションの連続。人物造形も秀逸だから、ホント、目が離せない。すてきなラストまで一気読みの面白さだ。

 長浦京のベストだ!

(KADOKAWA 1850円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  2. 2

    俳優・平岳大さんが語る『SHOGUN 将軍』撮影秘話 人生とリンクする「2匹の招き猫」との出会い

  3. 3

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 4

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 5

    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

  1. 6

    マチアプ使い夫婦で“美人局”…若妻との行為中に帰宅した夫が「不倫やぞ」と現金奪う

  2. 7

    真田広之「エミー賞主演男優賞」快挙でようやく“上書き”される…葉月里緒奈との泥沼不倫劇

  3. 8

    辞め女子アナ人生いろいろ…元TBS小林悠「半額の刺し身でひとり夕食」、元NHK住吉美紀「長い婚活の末に再婚」

  4. 9

    高市早苗に「総裁の品位」みじんもなし…文書郵送も裏金推薦人もわれ関せず“居直り”連発

  5. 10

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!