「孔丘」宮城谷昌光著
孔丘(孔子)は、娘ばかりの家にようやく生まれた息子だった。母は息子を産むだけのために60歳すぎの孔紇に嫁いだのだ。父は魯国内の勇者として知られていたが、母は武勇を激しく憎んでいた。
孔丘がまだ10歳にもならない頃、博識の貴人として知られる延陵の季子が長男を失った、という噂を聞き、どのような葬礼を行うのか見たいと思った。
その地は徒歩で行くには遠過ぎたので、母が馬車を頼んでくれた。埋葬は凶礼なのに吉礼のやり方をするのを見て、孔丘は戸惑った。
十数年後、季子は長男の魂が骨と肉から解放されて自由に動けるようになったことを祝ったのだと、孔丘は悟った。
儒教の始祖、孔丘を人間として描く。
(文藝春秋 2000円+税)