中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<27>母親の遺体を見て安心したんじゃ?

公開日: 更新日:

 告別式の開始時刻直前、報道陣の一部が動いた。

 それまで参列者が会場の中に消えていく姿をひたすら追っていたひと組のクルーたちが、いきなり群れから飛び出して斎場内に足を踏み入れてきたのだ。

 クルーたちの標的は確かめるまでもない。彼らは富秋と亜以子目がけて駆け出していく。

「犬養さん」

 明日香が顔色を変えて前に出ようとするのを、犬養が制止する。

「まだ早い」

 先頭を走っていたのはICレコーダーを握ったショートボブの女だった。何度かワイドショーで見たことがある。確か宮里とかいう、物欲しそうな目が特徴のレポーターだ。下世話なインタビューとえげつない追い込み方で評判が悪いが、悪名が無名に勝るのはどこの世界も同じらしく報道の現場では重宝されているらしい。

 宮里は見る間に亜以子に駆け寄り、ICレコーダーを彼女の前に突き出した。

『長山瑞穂さんの娘さんですね。お母さんは安楽死を選んだということですが、その辺のことは家族も納得済みだったんでしょうか』

 今度は亜以子の顔色が変わる。今まで感情が溢れ出すのを堪えるために硬くしていた表情が崩壊する。

『やめてください』

『きっと娘さんも辛かったと思います。でもお母さんの遺体を見た時に、ひょっとして安心したんじゃありませんか。これでもう苦しまずに済むんですから』

『誰が安心するんですか。ふざけないでよ』

『真面目にインタビューしてますよ。こっちは』

『わたしたちの気持ちなんて知りもしないくせに』

『だあからあ、それを世間に知ってもらうために質問に答えてほしいんですよお』

 亜以子が血相を変えると、宮里は薄く笑ったようだった。宮里がわざと相手を怒らせようとしているのは歴然としている。しかしレコーダーを突きつけられている本人は興奮しているので、宮里の意図に気づけないだろう。

 娘の動揺に気づいた富秋が二人の間に割って入る。

『どこの局の人だか知らないが場を弁えてくれ。ここをどこだと思っているんだ』

『死んだ人の思い出を語る場所ですよね。だったらご主人も思いの丈を話してはどうですか。奥さんを安楽死させると決めた時の気持ちとか、煩わしい介護から解放された時の嬉しさとか』

 最後の台詞が自制心に楔を打ち込んだらしく、富秋は怒りの表情も露わに宮里に掴みかかった。

「行くぞ」

 言うより早く犬養は区役所の敷地から駆け出した。

 (つづく)

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