「本心」平野啓一郎著

公開日: 更新日:

 時は2040年。リアルアバターとして働く朔也は29歳のとき、母を事故で失う。母は随分前から「自由死」を望み、認めない朔也と議論をしている最中の死だった。母はなぜ「自由死」を望んだのか。僕にお金を残すためだったのか? 母の本心を知りたいと思った朔也は、AI/VR技術を使い、生前そっくりの母を再生させる。

 出来上がった母のVF(バーチャルフィギュア)に学習させるため、「情報」を求め、朔也は母と交遊のあった人々を訪ねていく。医師、パート仲間の彩花、かつて交際をしていた老作家。彼らから僕がまったく知らなかった母のもう一つの顔を知らされる。

 ある日、朔也はひょんなことから、人気アバターデザイナーのイフィーと懇意になり、彩花も加わり3人の付き合いが始まる。裕福な「あっちの世界」を間近で見ながらも、朔也は自分や愛する人々の本心を見つめていく――。

 ITが急速に進んだ社会で取り残された人々、自由死の合法化、貧困、社会の分断など今後、現代人が直面するであろう社会の課題を浮き彫りにした話題作。登場人物たちのセリフがヒントとなり展開していくさまはまるでミステリーのよう。

 ラストシーンの朔也の決意に、希望が感じられる。

(文藝春秋 1980円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  2. 2

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  3. 3

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 4

    「べらぼう」大河歴代ワースト2位ほぼ確定も…蔦重演じ切った横浜流星には“その後”というジンクスあり

  5. 5

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  1. 6

    「台湾有事」発言から1カ月、中国軍機が空自機にレーダー照射…高市首相の“場当たり”に外交・防衛官僚が苦悶

  2. 7

    高市首相の台湾有事発言は意図的だった? 元経産官僚が1年以上前に指摘「恐ろしい予言」がSNSで話題

  3. 8

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  4. 9

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  5. 10

    高市政権の「極右化」止まらず…維新が参政党に急接近、さらなる右旋回の“ブースト役”に