「江戸のジャーナリスト 葛飾北斎」千野境子著

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 人気浮世絵師として世界中で名高く、その作品は今なお注目を集めている葛飾北斎。元新聞記者の著者は、好奇心全開で常に新分野に挑戦し続けた北斎を絵師としてだけでなく、ジャーナリストとしてとらえた。江戸期という鎖国下で海外渡航もできなかった時代、北斎はオランダや中国、朝鮮半島などの世界に対する強い関心と、物事を俯瞰(ふかん)して観察する冷静な目を持っていた。本書は、生い立ちから90歳で大往生を迎えるまでの北斎とその作品を振り返りながら、ジャーナリスト・北斎の姿を描く。

 北斎は75歳に発表した「富嶽百景」で「来朝の不二」として朝鮮通信史を描いた。同じ題材で大ヒットした歌川広重の「東海道五十三次」が風景の美しさを描くことに注力しているのに対し、北斎は絵巻物などの資料を漁り、当時の庶民の娯楽の対象だった朝鮮通信使を題材として取り入れている。時代の先端を行く彼は、西洋画法にも挑戦し、晩年には油絵にも興味を持っていたというから驚きだ。

 ジャーナリストという側面から北斎の絵を見直すと、日々新たに起こる出来事に迫ろうとした彼の姿が見えてくる。

(国土社 1540円)

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