「母ちゃんのフラフープ」田村淳著

公開日: 更新日:

 若い頃、看護師をしていた母ちゃんのがんが再発した。最初のがんから2年後のことで、僕ら家族はもう大丈夫じゃないか……と思った直後の再発だった。

 母ちゃんは延命治療はしないと宣言。だけど人生を投げ出したわけじゃない。死を受け止めつつも、限られた日々を充実させようとしていった。念願の屋形船に乗り、写真をいっぱい撮った。

 本当は手術をして、一日でも長生きしてほしい。でも家族といえど、ひとりひとりが考える領域に踏み込めないこともある。心が揺れる中、新型コロナが広がり、身動きが取れなくなっていく……。

 芸人の枠にとどまらずマルチに活躍する著者による、母との別れをつづった書き下ろしノンフィクション。

 明るくておしゃべりが好きだった母ちゃんの「人に迷惑だけはかけるな」という一貫した教え、反抗期の息子との大バトル、上京した息子に送り続けた宅配便、終活ノートの存在など、つづられた思い出からは母親の強さ、そして必ず訪れる「別れの日」への戸惑いと覚悟がにじみ出る。

 巻末には、著者がプロデュースした「遺言動画サービス」のため取り組んだ修士論文の一部も掲載。母が協力した動画に、タイトルの謎が隠されている。

(ブックマン社 1540円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗