「白医」下村敦史著

公開日: 更新日:

 善意で人を殺せば聖人ですか? 裁判所の証人席で水木多香子がそう発言するシーンから物語は始まる。彼女は主治医である神崎秀輝によって、夫が安楽死させられたことを訴えた。

 神崎は、終末期を過ごす患者に緩和ケアを行うホスピス「天心病院」の医師であり、多香子の夫でボクサーの水木雅隆のほか、乳がんの肺転移で苦しんでいた川村富子、認知症でがんも患っていた曽我文江に対して、自殺幇助の罪に問われていた。

 告発したのは、同病院の医師・高井一正。高井は患者思いの神崎を尊敬していたが、疑念を感じて看護師に頼んで証拠を確認し、知ってしまった以上は告発せざるを得ないと決意したのだ。

 神崎は自らの罪に対して弁明することもなく刑に服したのだが、時が経つにつれて事件の意外な真相が浮かび上がってくる……。

闇に香る嘘」で第60回江戸川乱歩賞を受賞してデビューして以来、数々の話題作を世に送り出している著者による最新作。安楽死を望む患者、その家族、命を終わらせる行為を請け負う者、それぞれの立場から安楽死が抱えるさまざまな側面に光を当てた医療ミステリーだ。

(講談社 1760円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  2. 2
    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

  3. 3
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  4. 4
    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

  5. 5
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  1. 6
    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

  2. 7
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  3. 8
    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

  4. 9
    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

  5. 10
    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う

    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う