作品を通して知る隣国アジア文学特集

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「僕の狂ったフェミ彼女」ミン・ジヒョン著 加藤慧訳

 知っているようで知らないアジアの国々。そこで暮らす人たちを、文学という眼鏡を通してのぞいてみたら、旅行では味わえない思いがけない発見があるかもしれない。今回は、韓国、台湾、新疆ウイグル自治区、チベットの選りすぐり文学作品5冊をご紹介する。



 主人公のスンジュンは、紹介された女の子とデートをしても、いつもピンとこない独身男子。大学4年生だった4年前には彼女がいたのだが、米国でのインターンが決まり1年間渡米することになったのを契機に、彼女から別れを切り出され、以降まともな恋愛ができなかったのだ。

 どうしたものかと悩んでいたある日、街でデモ活動をしている女性集団に遭遇する。その集団の中のひとりから突如追いかけられ思わず逃げ出したが、追いかけてきたのは、かつてつき合っていた彼女だった。スンジュンは久しぶりの再会にうれしくなり、再びつき合おうと提案するものの、彼女はかつての彼女ではなかった……。

 女性が置かれている社会状況を直視せざるを得なくなる主人公を通して、韓国社会の男女の関係性が見えてくる話題作。

(イースト・プレス 1760円)

「君の心に刻んだ名前」湛藍著 大洞敦史訳

 物語の舞台は、1987年の台中にある全寮制のウェルテル男子高校。主人公のアハンは、ブラスバンド部で転校生のバーディと出会った。彼は、バーディにサクソフォンの吹き方や寮生活について教えているうち、彼に親しみを感じるようになった。

 その後、寮仲間に誘われナンパに行ったものの、女に全く興味が持てないことに気づいたアハンは、バーディとふたりで台北旅行に出かけた際に恋愛感情を持っていることを自覚し、特別な関係になっていく。しかし、教育省の方針で男子高校が男女共学になったことで、ふたりの関係が狂い始める……。

 本書は、アジアで初めて同性婚が法制化された台湾で大ヒットした同性愛小説。同性愛がタブーとされた時代に、自らの性と向き合った男たちの心の軌跡が描かれている。

(幻冬舎 1760円)

「冬牧場」李娟著 河崎みゆき訳

 新疆ウイグル自治区アルタイ南部のカザフ族の遊牧民たちは、羊が必要とする水と草のために一年を通して南下と北上の移動を繰り返す生活様式を持つ。しかし、中国政府が進める遊牧民定住プロジェクトによって、この生活は年々失われつつある。

 本書は2010年末から翌年の春まで遊牧民ジーマ一家のもとで一緒に暮らしながら、極寒の砂漠を共に移動した作家による体験を描いたノンフィクションだ。

 寒風に耐えながら、羊や馬を追い、ラクダや牛の面倒を見る暮らしが果たして可能なのか。受け入れ家庭にけげんに思われながらも、なんとか馬を乗りこなし、身動きがとれなくなる防寒着での立ち居振る舞いに苦労しながら、羊のフンの壁で寒さをしのぎつつ、遊牧民の習慣に馴染もうとする著者の奮闘ぶりが凄まじい。

(アストラハウス 3740円)

「路上の陽光」ラシャムジャ著 星泉訳

 チベット人のダワ・ラモは、日本で暮らす亡命2世。ある思いを抱えて、東京から南に向かう新幹線に乗り込んだ。車内で回想するのは、自分の身に起こった数々のこと。ダワ・ラモは幼い頃ネパールの都カトマンズで大規模な騒乱が起こり両親とカナダに移り住んでいたのだが、そこで両親が離婚して今度は母親に連れられて日本にやってきたのだった。

 母親の勧めで日本人と結婚したものの心が通じ合わなかったため、母親のもとに戻っていたところ、祖国からやってきた青年と出会ったのだ……。(「遥かなるサクラジマ」)

 チベット文学界で注目されている著者による短編小説集。前述の祖国を離れたチベット人女性の心情を描いた「遥かなるサクラジマ」のほか、「路上の陽光」「最後の羊飼い」など計8編が収録されている。

(書肆侃侃房 2200円)

「年年歳歳」ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳

 イ・スンイルの家に次女のハン・セジンが車で迎えに来るところから話が始まる。イ・スンイルは、土が凍って骨を掘り起こせなくなる前に、杖なしでは歩けない自分が墓参りに行けなくなる前に山にある祖父の墓に行き、廃墓にしたいという。

 早く家に戻ってこいと話す母親に反発しながらもハン・セジンはつき合って墓まで行くのだが……。(「廃墓」)

 1946年生まれのイ・スンイルとそのふたりの娘の人生を描いた連作小説集。戦争の影響で学校に行けなかったイ・スンイルは、親戚の中で女中のように使われる生活から抜け出すために戦争孤児だったハン・ジュオンと結婚して必死に働いた。家父長制の強い韓国の中でさまざまな思いを胸に秘めた女が、娘たちにまた別の影響を与えていく様子がなんとも切ない。

(河出書房新社 2145円)

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