「海蝶 鎮魂のダイブ」 吉川英梨著

公開日: 更新日:

 主人公は、日本でただ1人の海上保安庁女性潜水士・忍海愛。愛には東日本大震災で母を失い、自身も命を失いかけた過去があった。

 震災から11年後、愛は震災時に自分を助けてくれた海上保安署の隊員・佐崎純平と再会する。彼は海保を辞め、レストラン船の1等航海士として仙台で働いていた。自然と付き合い始めたふたりだったが、やがて愛は佐崎が海保を辞めたのは震災の影響でPTSDになったためだったということがわかり動揺する。

 デートを重ねるうちに愛は自分と会うことで彼の心の傷が刺激されていること、さらに彼がレストラン船の仕事も辞めてしまったことを知る。話し合うために休みをとってふたりで船旅に出かけたところ、乗客として乗り込んだ大型フェリーで有毒ガスが発生し窮地に追い込まれる……。

 本書は女性潜水士を主人公とする海蝶シリーズ第2弾。決して忘れられない震災の傷を抱えた主人公が、乗客乗員687人を乗せたフェリーの命運を握ることになるスリリングなストーリー。時がたっても拭えないつらい思いをなんとか乗り越えようとする人々の姿を真摯に描いている。

(講談社 1870円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘