データ野球の現在

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「野球データ革命」森本崚太著

 近年のデータ野球の発達はめざましい。かつて「上から叩く」が常識のホームラン打撃術をひっくり返した「フライボール革命」もデータ野球のたまものだ。



 スポーツのデータ分析を手がける会社が日本でも続々と生まれているが、著者は中日ドラゴンズの選手サポートなどで実績のある「ネクストベース」社のアナリスト。本書は野球のデータ分析を、日米プロ野球を例に具体的に解説する。

 昔なら「キレのいいストレート」「落差のあるフォーク」と主観的な言い方だったのが「フォーシームのホップ成分がメジャーリーグ(MLB)の平均と比べて何センチ上回っているか」「フォークはフォーシームと比べて何センチ落ちているか」といった数値で客観的に示されるようになったのだ。「上から叩く」が基本といわれたバッティングがフライを打ち上げる「フライボール革命」で大きく変わったのもこの影響。数値をまとめたグラフや図表を多用し、見かけはまるで物理の教科書といったところだろう。

 しかしこれが面白い。テレビの野球解説番組でも選手やボールの動作を解析する「スタットキャスト」の映像が増えたこともあって、数値主体の解説がすんなりアタマに入ってくるのだ。MLBの公式球が滑りやすく、ピッチャーは指先で押さえ込もうとするためジャイロ回転が多くなるなどの事実が、大谷翔平やダルビッシュ有らの活躍と相まって面白く感じられる。データ野球は観客の感性をも変えたのだ。

(竹書房 1980円)

「アメリカン・ベースボール革命」ベン・リンドバーグ、トラビス・ソーチック著 岩崎晋也訳

 アメリカ野球を根底から変えた技術として注目なのが「セイバーメトリクス」。メトリクスは「指標」を意味する接尾語。セイバーはアメリカ野球学会の略称。もともとは年俸が安いわりに活躍している選手を探し出すという目的でオンラインの野球ゲームで使われたものだったという。それがいまやアメリカ野球にとって科学的・合理的にプレーするための統計学的な指標になっているというわけだ。

 本書はその手法を貪欲に吸収しようとするMLBの現場を追った力作ルポ。データ分析の導入で「才能は生まれつきのものだという昔ながらの信念は覆されつつある」という。またデータ野球は選手間の実力差をなくしてつまらなくするという批判は間違いだ、と主張する。

 セイバーメトリクスが映画「マネーボール」に描かれたことでGMによるチーム編成は変化し、ボールの動きを高精度に分析するスタットキャストの導入で「フライボール革命」が起こり、大谷翔平のバッティングスタイルも劇的に変わったのだ。

(化学同人 3520円)

「砂まみれの名将」加藤弘士著

 データ野球の元祖といえばこの人、故・野村克也。華やかなONに対して地味だったパ・リーグの月見草を自称し、直観と体験至上主義だった日本の野球を大きく変えた功労者だ。

 しかし、派手な言動で世間を騒がせた妻サッチーの脱税騒ぎで阪神の監督を辞任した際は、チームの成績不振と相まって、誰もが「ノムさんは終わりだ」と思った。そこに手を差し伸べたのが長年交友のあったカラオケチェーン、シダックスの会長。自社の野球部の監督にと野村を招請したのだ。

 プロ一筋でやってきた野村はアマチュア野球とは無縁。しかし「野村克也引く野球はゼロ」が口癖の知将は、アマチュア指導者として生き生きとした姿を見せるようになる。プロ時代とは打って変わった粗末な練習環境でも愚痴ひとつこぼすことなく、アマチュアながらも一癖ある選手たちを懇々と諭し、声をかけ、やがてプロに進む人材や少年野球、高校や大学野球の指導者にまで成長させてゆく。

 希代の名将と仰がれながらも注目されることの少なかったアマチュア時代の業績に焦点を当て、入念な取材で読ませる快著。

 野村流データ野球の本質は「人を見る目」にあったことがわかる。

(新潮社 1650円)

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