#MeTooはこれからだ

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「キャッチ・アンド・キル」ローナン・ファロー著 関美和訳

 細田衆院議長の問題をはじめ、相変わらず旧態依然の日本のセクハラ告発。「ミートゥー」本格化への動きはいかにして強まるのか。



 アメリカでミートゥー運動が一気に盛り上がったのは標的がハリウッドの大物プロデューサーだったから。「セックスと嘘とビデオテープ」「恋におちたシェイクスピア」などで数々の受賞歴を誇るワインスタインは、女優たちを次々に毒牙にかけるという噂がもっぱらだが、他方でヒラリー・クリントン陣営の参謀役でイスラエルとの関係も太い大物。それゆえリベラルなメディアも手の出しようがなかった。

 そこに挑んだ著者は当時NBCニュースの記者としてハリウッドの賞レースの八百長やセクハラについて深く取材。そのときある女優から、あなたの書いた記事を信用するといわれる。実は著者の母は女優ミア・ファロー。実父が俳優で監督のウディ・アレン。著者の姉が7歳のとき、アレンが性的虐待を仕掛けた事件は家族に暗い影を落とした。だが、記者になってから姉の事件をとことん調べ直したところから彼は記者として独自の道を歩み始める。

 本書にはその過程も出てくるが、主眼はあくまでミートゥー運動を喚起した米芸能界の構造的セクハラ問題の追及。ワインスタインはリベラル派だけに追及は困難だったはずだが、実はトランプの政治的存在感が急に増大したことが真の背景だったことも示唆されている。日本の惰弱な大手メディアにツメのアカを煎じて飲ませたい。

(文藝春秋 2530円)

「ハッシュタグだけじゃ始まらない」熱田敬子ほか編

 ミートゥーというと職場などでのセクハラだけと思われがちだが、実は慰安婦=性奴隷問題への深い関与を続けてきたのもミートゥー運動だ。

 本書は欧米に比してフェミニズム運動が弱いと思われている東アジア、台湾・中国・香港・韓国の状況を現場の運動家たちを通して報告する。

 こうした運動にはSNSが不可欠。ミートゥーもハッシュタグ(#)をつけてネットで拡散されることで広範な支持が集まったのは事実。だが、本書は冒頭で「『リツイート』や『いいね』という指先だけの運動は、どれほど効果があるのか」と疑問を投げかける。「オンとオフを切り分け、『安全』に見えるオンラインにとどまろうとする」のは無意味だと鋭く指摘するのだ。逆に表立ったデモなどが規制される中国では、オンラインは路上のオフラインと区別できないほど激しい運動が展開される場になった。

 話題の韓流ドラマなどもタブーなしに現実の社会問題を描く傾向が強く、トランスジェンダーの登場や三角関係の一翼にレズビアンが配されるなどの特徴がみられるという。

(大月書店 1980円)

「愛について」竹村和子著

 フェミニズムというと、1960年代のウーマンリブがすぐに浮かぶが、あれだけで終わったわけではない。女性の社会進出が見られ始めた80年代以後が正念場だった。その時期から現在までの懸け橋の時代に運動を前線で率いたのが本書の著者。2011年に57歳で病没したが、その主著がこのほど文庫化された。

「アイデンティティと欲望の政治学」と題された本書では、女と男の結びつきを自明のものとする「異性愛主義」を俎上に、それが近代資本主義と深く結びつけられてきたことを指摘する。

「ホモセクシュアル」という命名は都市化と産業化が進行し、資本主義の現代的な形態が完成した19世紀末から20世紀初頭のことだったという。LGBTQ+の現在への橋渡しとなった記念碑的な論考。

(岩波書店 1782円)

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