「外国人差別の現場」安田浩一、安田菜津紀著

公開日: 更新日:

 昨今、日本政府はウクライナから逃れた同国民の受け入れを進めている。2022年3月15日、ニューヨーク・タイムズはこう報じた。「世界で最も難民に冷たい国の一つである日本がウクライナから47人を受け入れた」。日本の外国人政策は、世界でも知られるほどレベルが低い。本書ではその悲惨な歴史と現状を洗い出している。

 日本で最初に一般外国人に関する取り決めができたのは1899年。以降、すべての外国人の出入国管理は特高警察にゆだねられ、入管業務は治安の観点からの警察業務となった。戦後は民主化した体制を求めるGHQの意向により法務省の管轄となり、現在の出入国在留管理庁への業務が受け継がれた。

 ところが、書き換えられたのは看板だけで、内実は旧態依然のままだった。かつての特高警察官の中で公職追放を免れた者たちが出入国管理庁に集まり、特高体質が引き継がれてしまったためだ。現在の入管の隠蔽体質や強権的な姿勢は、こうした“成育歴”が影響している可能性がある。

 2021年3月、スリランカ出身のウィシュマさんが名古屋入管で亡くなった事件を受けても、入管側の変化は期待できそうにない。同年12月に入管庁が公表した「現行入管法上の問題点」という資料では、送還を拒む外国人に「前科」のある人が多いことが強調されていた。しかし、実際に退去強制命令を受けた外国人のうち、過去に刑罰法令違反とされたことのある人は2%ほどだという。日本の中で「外国人は怖い」という偏見が根強いのは、こうした資料が与える負の影響があると指摘する。

 技能実習制度の闇も明らかにしながら、日本に巣くう差別意識の正体をあぶり出す。

(朝日新聞出版 935円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ソフトバンクに激震!メジャー再挑戦狙うFA有原航平を「巨人が獲得に乗り出す」の怪情報

  2. 2

    山崎まさよし、新しい学校のリーダーズ…“公演ドタキャン”が続く背景に「世間の目」の変化

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    草間リチャード敬太“全裸騒動”にくすぶる「ハメられた」説…「狙った位置から撮影」「通報が早い」と疑問視する意見広がる

  5. 5

    維新の「議員定数1割削減」に潜む欺瞞…連立入りの絶対条件は“焼け太り”狙った露骨な党利党略

  1. 6

    山崎まさよし公演ドタキャンで猛批判 それでもまだ“沢田研二の域”には達していない

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  3. 8

    「これが寝るってことだ」と感激…女優の岡崎友紀さん変形性股関節症との苦闘

  4. 9

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  5. 10

    公然わいせつ容疑で逮捕→釈放も“連帯責任”…Aぇ! group草間リチャード敬太の芸能界復帰はイバラの道