北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢著

公開日: 更新日:

 札幌で芸人をしながらフリースタイルの短歌を作っている著者の本である。「フリースタイルの短歌」とは、五七五七七の31文字にこだわらず、自由に作るもので、たとえば本書から引用すると、「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」は36文字。自由なのである。

 さらに特徴は、この自転車のうたで明らかなように、ひたすら小さな不幸に見舞われる日々を短歌にしていること。したがって、不幸短歌とも言われているようだ。その意味で本書収録のうたから私が個人的に選んだベスト1は以下の短歌だ。

「星空が綺麗なことで有名な露天風呂でのすごい曇天」

 おお、小さな不幸をいつも招き寄せる人なら、こんなこともありそうだ。しかし中には説明がないとわかりにくいものもあり、それがこれ。

「その王は実は影武者で本物はこの銀なので勝負続行」

 著者は将棋が弱いので、かなり早い段階で負けてしまい、そうなると相手が残念そうな顔をするというのだ。こんなに弱いとは思わなかった、これでは全然楽しめない、という顔になるので、その空気を変えたいと思って、こう言ってしまったというのである。しかし相手は「は?」と言ったきりその場を去っていき、全然ウケなかったというオチがつく。難しいものである。 (幻冬舎 1650円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗