「平等バカ-原則平等に縛られる日本社会の異常を問う-」池田清彦著/扶桑社新書

公開日: 更新日:

「平等は素晴らしいことだ」という考え方が日本を支配している。しかし、生物学者の著者は本来人間は平等ではないことを説明する。たとえば、災害の避難所に500人がいたものの、毛布が300枚しかない場合は全員に渡せないという理由から「一切配らない」という判断をする。そして野菜が届いたとしても全員に配れないのであれば配らずに腐らせてしまうという実例があったそうだ。

 リスクの高い人に毛布は配るべきだし、野菜にしても育ちざかりの子供や体の弱い人や妊婦、高齢者に渡し、体の強い人は「何とか耐えてください! スイマセン!」とやるべきだという話だ。

 これが「平等バカ」の意味である。平等を重視し、恩恵を受けられない人間からのクレームを回避したいとするあまり、全体の利益を減らしてしまうことがいかにバカかを著者は示す。この件については新型コロナウイルスで登場した「自粛警察」についても言及されている。これは「嫉妬羨望システム」なのだという。

〈緊急事態宣言中にサーフィンに行ったり、パチンコに行ったりする人を袋叩きにするいわゆる「自粛警察」などはまさにその典型で、「自分は家で我慢しているのに、楽しそうなことをするヤツがいるのは許せない」というのが彼らの言い分なのである(中略)現状への不満に端を発するこういうメンタリティの蔓延こそが、安易な平等主義をはびこらせる要因になっている〉

 さらには、もともと男性として生まれたトランスジェンダーのウエートリフティング選手が「女性」として東京五輪に出場した件や、もともと男女には向き不向きがそれぞれあるため、役割分担は認めてもいいのでは、といった提言もされる。

 今の時代、同氏の主張は批判の対象になるかもしれないが、「現実はそんなものである」というリアリスト的な主張を持つ人にとっては、こっそりと読んでおきたい本かもしれない。

 とはいっても、私自身、著者が主張する新型コロナのワクチンには効果があるという論や、東京五輪がコロナ感染を拡大させることについて〈新型コロナの感染がオリンピックを機に拡大することは自明なので、政権の「安全、安心」というかけ声とは裏腹に、結果的に相当数の人が亡くなる殺人オリンピックになることは間違いない〉の断言にはまったく納得できない。コロナ関連以外では面白い本である。 ★★(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    農水省ゴリ押し「おこめ券」は完全失速…鈴木農相も「食料品全般に使える」とコメ高騰対策から逸脱の本末転倒

  3. 3

    TBS「ザ・ロイヤルファミリー」はロケ地巡礼も大盛り上がり

  4. 4

    維新の政権しがみつき戦略は破綻確実…定数削減を「改革のセンターピン」とイキった吉村代表ダサすぎる発言後退

  5. 5

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  1. 6

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  2. 7

    粗品「THE W」での“爆弾発言”が物議…「1秒も面白くなかった」「レベルの低い大会だった」「間違ったお笑い」

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  5. 10

    巨人阿部監督の“育成放棄宣言”に選手とファン絶望…ベテラン偏重、補強優先はもうウンザリ