著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「魔術師の匣」(上・下) カミラ・レックバリ、ヘンリック・フェキセウス著 富山クラーソン陽子訳

公開日: 更新日:

 カミラ・レックバリは、「氷姫」をはじめとするエリカ&パトリック事件簿で知られているが(このシリーズはわが国でもこれまでに10作が翻訳されている)、そのスウェーデンミステリーの女王が新たな共著者と組んで始めた新シリーズの第1作だ。

 最初に発見されたのは、箱に幽閉され、剣で貫かれた女性の死体。ストックホルム警察特捜班のミーナ刑事は、事件と奇術の関わりに着目し、著名なメンタリストで奇術にも詳しいヴィンセントに協力を依頼する。すると奇術に見立てた殺人がその後も起こり、この2人のコンビが真相解明に乗り出していく。

 ミステリーであるからこれ以上の詳しい内容紹介は避けたい。それよりもこの小説の魅力について強調しておきたい。ストックホルム警察特捜班の面々が、まず超個性的なのである。その筆頭がヒロインのミーナ。この女刑事は超潔癖症との設定なので、とにかく不自由な生活を送っている。街を歩くと外はバイ菌でいっぱいなのだ。ポケットには消毒液が入っているが、それだけでは心が休まらない。陽気なゴールデンレトリバーが近寄ってくると、この毛のなかにはどんなバイ菌がたくさん蠢いているだろうかとあとずさるのだ。

 3つ子の育児に追われて睡眠不足のやつもいれば(捜査会議ではいつも寝ている!)、尋常ではない好色漢もいて、ストックホルム警察は大変だ。実に快調なシリーズの開幕に拍手したい。

(文藝春秋 各1210円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    夏の京都に異変! 訪日客でオーバーツーリズムのはずが…高級ホテルが低調なワケ

  3. 3

    中日ポスト立浪は「侍J井端監督vs井上二軍監督」の一騎打ち…周囲の評価は五分五分か

  4. 4

    不倫報道の福原愛 緩さとモテぶりは現役時から評判だった

  5. 5

    ヒロド歩美アナ「報ステ」起用で波紋…テレ朝とABCテレビの間に吹き始めた“すきま風”

  1. 6

    中日立浪監督「ビリ回避なら続投説」は本当か…3年連続“安定の低迷”でも観客動員は絶好調

  2. 7

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

  3. 8

    夏休み到来! 我が子をテレビやゲーム、YouTube漬けにしない「割と簡単にできる方法」

  4. 9

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 10

    新庄監督は日本ハムCS進出、続投要請でも「続投拒否」か…就任時に公言していた“未来予想図”