著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ロスト・スピーシーズ」 下村敦史著

公開日: 更新日:

 アマゾンを舞台にした物語だ。がんの特効薬になる幻の植物「奇跡の百合」を見つけるために、探検隊が組織される。リーダーは、アメリカの製薬会社のクリフォード。メンバーはまず、ボディーガード役のロドリゲス(もともとは金の採掘人だ)、植物ハンターのデニス、環境問題に取り組む大学生ジュリア。そして日本人の植物学者・三浦。この5人がアマゾンの奥地に入っていく。

 この手の小説の常套だが、正体不明の2人組が探検隊を追ってくること。この2人が何を狙っているのかがわからないから、サスペンスが盛り上がっていく。さらにメンバーの中にもさまざまな思惑があって、それが衝突すること。舞台がアマゾンなので、アマゾン・ジャガーをはじめとする動物たちが次々に現れて、人間の侵入を阻むように立ち塞がること。定番ながらもこのあたりはしっかりと読ませる。

 本書の特徴は、背景となるブラジルそのものを描いていることで、その貧困層がいかに過酷な現実を生きているかを克明に描いている。19世紀の半ばにゴムが発見されてアマゾンが栄えたこと、やがてイギリス人にゴムの木の種を国外に持ち出しされて東南アジアで栽培されるようになると、アマゾンの独占的地位は失われ、その中心の街マナウスも寂れていくこと。そういう歴史を背景に、人間たちの欲望がぶつかり合う構図を下村敦史は巧みに描きだしている。

(KADOKAWA 2035円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  5. 5

    「NHKから国民を守る党」崩壊秒読み…立花孝志党首は服役の公算大、斉藤副党首の唐突離党がダメ押し

  1. 6

    国民民主党でくすぶる「パワハラ問題」めぐり玉木雄一郎代表がブチ切れ! 定例会見での一部始終

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  3. 8

    男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し

  4. 9

    長女Cocomiに熱愛発覚…父キムタクがさらに抱える2つの「ちょ、待てよ」リスク

  5. 10

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ