「世界を騙した女詐欺師たち」トリ・テルファー著、富原まさ江訳

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「世界を騙した女詐欺師たち」トリ・テルファー著、富原まさ江訳

 英語で詐欺師はconfidence artistというが、詐欺のエキスパートは文字通り信頼(confidence)を自在に操り、人を巧みに騙す職人といえる。本書では古今の名だたる女性詐欺師たち十数人を取り上げ、彼女たちがいかに「信頼」を武器に己の欲望を達成していったかがつづられている。

 最初に登場するのは、王妃マリー・アントワネットを巻き込んだ史上有名な「首飾り事件」の首謀者、ラ・モット伯爵夫人ことジャンヌ・ド=サン=レミ。王妃アントワネットの親友だと吹聴した彼女の周りには王妃に取り入ろうと多くの人が訪れる。その一人がロアン枢機卿で、彼は数百個のダイヤモンドがちりばめられた首飾りを王妃に渡すようにジャンヌに託す……。この事件はフランス革命にも影響を与えたともいわれ、なんとも大掛かりな詐欺事件だ。

 カナダの貧しい小村に生まれたキャシー・チャドウィックは、幼い頃から大金持ちになることを夢見ていた。アメリカに出てきた彼女は、大富豪アンドリュー・カーネギーの隠し子と偽り、銀行から大金をせしめる。

 次に紹介されるのは、ロマンス小説の人気作家ジュード・デヴローを見事に騙して大金をせしめたローズ・マークスをはじめとする、女霊媒師たちの巧みなテクニック。ガーナ出身の医師と偽り、アメフトの人気選手や監督らをスキャンダルに巻き込んだロキシー・アン・ライス……。彼女たちの金への妄執ぶりには呆気にとられると同時にどこか感心させられもする。

 しかし、最後に出てくるサンテ・カイムズは、幾人もの富豪の財産を食いつぶしただけでなく、放火、殺人をくり返す。果ては実の息子を殺人に巻き込んでしまう。こうなると詐欺というジャンルを超えてしまったように思える。

 それでも彼女たちの生き方には、どこか市井の人々に通じるものがあることは確かだ。世に詐欺の種は尽きまじということを知るにも、良き導きとなる書である。 <狸>

(原書房 1980円)

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