「終盤戦 79歳の日記」メイ・サートン著 幾島幸子訳

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「終盤戦 79歳の日記」メイ・サートン著 幾島幸子訳

 著者は、ベルギー生まれのアメリカの小説家・詩人・エッセイスト。ニューハンプシャーの片田舎での1人暮らしをつづった「独り居の日記」は、著者の孤独と対峙する心情が深く伝わる自伝的作品として大きく評価された。「独り居の日記」は58歳当時の日記だが、その後も「回復まで」(66~67歳)、「70歳の日記」「74歳の日記」「82歳の日記」など8冊の日記を刊行し、1995年、82歳で亡くなった。本書はその6冊目の日記に当たる。残る未訳は本書の後に刊行された80歳時の日記のみとなった。

 本書が始まるのは、78歳の誕生日を迎えた1990年の5月3日から。翌年の誕生日までの1年間につづった日記を80歳の誕生日に出そうというもくろみだ。

 しかし、サートンは前年からうち続く体調不良に悩まされていた。5年前に患った脳梗塞による心房細動に加え、左肺の胸腔に水がたまり呼吸が困難になる。さらには過敏性腸症候群による腹痛。そのため体重は20キロ以上減り、タイプも思うように打てなくなった。

 当初は自らタイプを打っていたが、途中から口述筆記に切り替える。そして思う。「作家生命はおそらくもう終わりであること、そして人に頼って生きることを受け入れなければならないときが来たのだ」と。

 不如意の自身の体を嘆くこともしばしばで陰鬱なトーンに覆われる箇所も多い。それでも、周囲の人たち(+愛猫のピエロや庭にやってくる鳥たち)の助けを借りながら日々の暮らしを整えていくことの楽しさ、素直に「人に頼る」ことを受け入れる大切さも、はしばしに語られている。

 誰しも老いや肉体の衰えを避けることはできない。しかしまた、人との関わりなしに生きていくこともできない。本書には、晩年を迎えた孤高の詩人が友人たちとの交流を通じて自らの老い、病、孤独と上手に折り合いを付けていく様子が虚心に描かれている。 <狸>

(みすず書房 3960円)

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