「食客論」星野太著

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「食客論」星野太著

「食客」とは、他人の家に寄宿し、養われて生活している人のこと。居候あるいは先生の家に住み込み、雑用をしながら食べさせてもらっている書生なども指す。言葉を換えれば、宿主に寄生(パラサイト)する者だ。

 古代ギリシャには、食事に招かれて、その返礼に自分の語りと笑いで会食者を楽しませる食客がいて、「世界最古の職業」とされている。ギリシャ語の食客(パラシートス)は傍ら(パラ)と食事(シートス)を組み合わせた言葉で、パラサイトの原義でもある。近年、「共生」という言葉がさまざまな場面で使われているが、著者はこの耳馴染みのよい言葉に違和感を抱き、一字違いの「寄生」という言葉を据え、「寄生の哲学」という風変わりな旅へ出ていく。

 旅の始まりは、ロラン・バルトの「いかにしてともに生きるか」という連続講義。バルトがそこで提示した他者と食事をともにすることが象徴する意味を手掛かりに、「味覚の生理学」(「美味礼讃」)を著したブリア=サヴァラン(バルトは「味覚の生理学」の新版に「解説」を寄せている)へつないでいく。ブリア=サヴァランの「食卓の快楽」の意味を概観した後に登場するのは、理想の共同体を幻視したシャルル・フーリエ。フーリエの食客への激しい批判を紹介した後、「食客」という対話編を著した古代ギリシャのルキアノスへ遡る。

 旅はさらに続く。キケロ、ソクラテス、ディオゲネス、九鬼周造、北大路魯山人、そして最後はシベリアの収容所で凄絶かつ究極の「孤食」を体験した詩人、石原吉郎へ至る。エピローグに置かれているのは、ポン・ジュノ監督の映画「パラサイト」。ここでハンナ・アーレントにも触れながら、再び冒頭の「共生」と「寄生」の問題へ立ち返るという仕立てだ。

 人は誰しも誰かに寄生している食客だという視点から描いたユニークな論考。 <狸>

(講談社 1760円)

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