「移民の子どもの隣に座る」玉置太郎著

公開日: 更新日:

「移民の子どもの隣に座る」玉置太郎著

 大阪の繁華街ミナミの町外れにある島之内は、移民が多い町。フィリピン、中国、韓国、ブラジルなどにルーツを持つ人たちが住人の3割を占め、その多くがミナミの飲食店で働いている。

 2012年、島之内で悲しい事件が起きた。フィリピン人のシングルマザーが幼い兄妹と無理心中を図ったのだ。この事件がきっかけとなって翌13年、移民支援のための「Minami 子ども教室」がスタートした。

 親が働きに出ている夜の時間、小学生から高校生まで30~40人が教室に通ってくる。教室の中では、地域の大人や大学生のボランティアが一対一で子どもの隣に座る。学校の宿題を見たり、とりとめのない話に耳を傾けたり。目線を子どもと同じにして向き合う。

 本作の著者は朝日新聞の記者。教室開設の半年後から、取材を兼ねて週に一度、教室に通い始めた。取材者ではなく、「ボランティアのタマキ」として移民の子どもやスタッフと接した。子どもたちが暮らす地域をもっと知りたいと、島之内にマンションを借りて住み始めた。親が倒れて途方にくれる子どもを部屋に招き、妻を交えて食卓を囲むこともあった。

 この本は、10年に及ぶMinami子ども教室のボランティア活動で出会った移民の子どもたち、親たち、そしてボランティアたちを記録した体験的ノンフィクション。著者のまなざしはあたたかく、メディアが陥りがちな性急で乱暴な取材の対極にある。「国境を越えて生きる人たち」と身近に接することによって、著者を含めたボランティアたちは多くを学び、生き方を変えていった。「支援する側とされる側」という枠組みを取り払い、「違い」を肯定して触れ合うことの豊かさを知った。

「違い」に不寛容で移民を受け入れたがらない日本人の狭い視野を広げ、「多文化共生」の未来に光を投げかける力作。

(朝日新聞出版 1870円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  3. 3
    試合ガタ減り、選手クーデター未遂…“不毛の8年”で晩節汚した青木功JGTO会長ついに退任

    試合ガタ減り、選手クーデター未遂…“不毛の8年”で晩節汚した青木功JGTO会長ついに退任

  4. 4
    岸田自民は補選「全敗」確定情報…島根1区も水面下で“白旗”揚げちゃった? 党幹部すら諦めモードの末期状態

    岸田自民は補選「全敗」確定情報…島根1区も水面下で“白旗”揚げちゃった? 党幹部すら諦めモードの末期状態

  5. 5
    ソフトB山川穂高を直撃「古巣への不義理、SBファンの拒否反応をどう思っていますか?」

    ソフトB山川穂高を直撃「古巣への不義理、SBファンの拒否反応をどう思っていますか?」

  1. 6
    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

  2. 7
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  3. 8
    「アンメット」の“三瓶先生”にハマる視聴者続出!杉咲花も惚れた若葉竜也「無愛想な魅力」の原点

    「アンメット」の“三瓶先生”にハマる視聴者続出!杉咲花も惚れた若葉竜也「無愛想な魅力」の原点

  4. 9
    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

  5. 10
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ