「シェルフ・ライフ」ナディア・ワーセフ著 後藤絵美訳

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「シェルフ・ライフ」ナディア・ワーセフ著 後藤絵美訳

 カイロの西、ナイル川の中州の街ザマーレクに、「ディーワーン」という書店がある。2003年に3人の女性が創業したこの店は、カイロでは見たことがないモダンな書店だった。

 これは革新的な出来事だった。男性優位のアラブ社会で女性が起業したというだけでなく、読書の自由を堂々と主張したからだ。当時のエジプトでは、文化的発信物が政府によって管理され、書店も文学も瀕死の状態にあった。

 だからこそ自分たちで理想の書店をつくろう。不可能と思われた夢を実現した3人の共同経営者は、ナディア・ワーセフ、姉のヒンド、そして年上の友人ニハール。3人は慣れないビジネスの世界で労苦をわかちあい、差別や偏見と闘った。本作はその一部始終をナディアが記録した自伝的ノンフィクション。「この本は私からディーワーンに宛てたラブレターだ」とナディアは書いている。

 創業から8年後、ナディアが37歳のとき、ディーワーンは10店舗に増え、150人の従業員を抱えていた。私生活では2度の離婚を経験し、2人の娘を育てていた。ナディアは英語教育を受けた知的で行動的なフェミニスト。ディーワーンは自由と自立の拠点であり、祖国エジプトを深く知るための学びの場でもあった。

 ディーワーンには居心地のいいカフェがある。周りの壁を埋める棚は「エジプト・エッセンシャルズ」「料理」「ビジネスとマネジメント」「妊娠と子育て」「古典」などのセクションに分かれ、アラビア語、英語、フランス語、ドイツ語の本が並ぶ。本が世界を、過去と未来をつないでいる。ナディアは棚をめぐりながら、本のエピソード、客や仲間とのやりとり、喜怒哀楽の思い出を語る。こだわりのある書店の一隅から、リアルなエジプトが見えてくる。

(ジー・ビー 2970円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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