「Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち」舟津昌平著/東洋経済新報社(選者:稲垣えみ子)

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Z世代の「病気」を作り出すモノの正体

「Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち」舟津昌平著/東洋経済新報社

 正直、近頃の若者(Z世代)が好きになれない。というか、正確に言うとよくわからん。わからないものは不気味だ。例えば、こんなウワサをあなたも聞いたことがないだろうか?

 大学の授業で授業態度を注意されると「PTAに言いつけますけどいいんですか?」と言い返してくる。

 気難しい表情の上司は存在そのものがストレス、らしい。

 だが怒られないと見捨てられた気がする。いい感じに怒ってほしい。

 ──控えめに言っても「何様?」としか思えない昭和のおばさんです。

 ちなみに上記の例はいずれも本書で紹介されたものだ。著者は大学教員(ちなみに、ゆとり世代)であり、日常的にかくのごとき恐るべきZ世代と接し、悩まされ、心を削られているのである。

 だが本書の白眉は、愚痴や説教で終わらないところだ。全くこいつら……と翻弄されながら、いったいなぜそんなことになってしまうのか、と自らの専門である経営学の視点から必死に読み解いていくゆとり。そして次第に、彼らを作り出しているモノの正体を明らかにしていくのである。

 それは、ひとことで言ってしまえば「大人側の事情」だ。もうちょっと具体的に言えば、現代に蔓延する狡猾な「ビジネスの論理」である。

 人々がおいそれとはモノを欲しがらなくなった成熟社会で、しかし何かを売りつけねば生き残れない会社や組織は、われらを必死に狙い撃ってくる。お客様は神様です、要望にお応えしますと客を甘やかしつつ、コンピューターの力も借りて個人の欲望を隙間なく刺激し誘導し、不安をあおり続ける。その「術中」に最も早くはまったのが、経験が浅く外からの影響を受けやすい若者なのだ。「異様に見えるZ世代は決して地球外から来たエイリアンではなく、社会構造をより敏感に写し取った、先端を往く者なのだ」

 開かれたようで閉じた世界に生き、不快に対する耐性が極端に弱く、異論を人生から排し続け、なのに永遠に不安から逃れられないZ世代の「病気」は、確実にわれわれの病気でもあるという、ゆとりの分析に私は説得された。Z世代を不気味に思っている場合じゃなかった。どんな世代であれ、この非情な世の中を地獄に落ちずに生き抜く術を見つけねばならないのだ。 ★★★


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