「生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる」池谷裕二著/扶桑社新書(選者:中川淳一郎)

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活用したい人にも怖がっている人にも納得の良書

「生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる」池谷裕二著

 生成AIに関する論は極端になりがちである。「生成AIは人間の仕事を奪う」「生成AIを使いこなせない人間はこれからの時代についてこられない」「生成AIはとにかくすさまじい革命だ!」--このように基本線として、過度な礼賛か恐怖あおりに徹するものだが、本書は異なる考え方を提示する。

 脳科学者の著者は生成AIの優れた点、便利な点を十分理解したうえで、「それでも人間は尊い」というスタンスに立ち、その尊い存在がいかにして優れたツールであるAIを活用して、より快適な生活を送り、さらなる高みに到達するかを考察する。

 本書はAI業界の競争の現状の解説に加え、いかにして活用するか、問題点はないのか? に加え、人間とAIの関係性のありようについて分かりやすく教えてくれる。生成AIを使いこなすには、指示の仕方が重要である。こんなくだりがある。同窓会でスピーチを頼まれた時の話だ。

〈ChatGPTに「年上で立場のある人も来る同窓会で、スピーチをすることになりました。現在のスピーチ原稿をもう少し高尚なものに変えてください」と伝えたところ、私が書いた内容を基にしながら、新しい原稿を作成してくれました。内容を見ると、まるで自分では思い浮かばないような大人びた表現を多用していて驚きました〉

 生成AIは「枕草子の文体にしてください」などのオーダーにも応えてくれる。これは、いかにして的確な指示をし、文章なりイラストの精度を高めるか、ということを意味する。結局人間ありきなのだ。そして「AIに仕事を奪われる」件だが、カウンセラー、教師、果てには外科医だってAIが担うことは可能だ。だが、教師の場合はAIの指導についていけない生徒のフォローやAIが教えた内容の補足をするようになる。要は「役割」が変わると説く。心と心を通わせたコミュニケーションはやはり人間がやらなくてはならないのだ。

 囲碁や将棋でプロがAIに負けた時「人類の敗北」とショックを受けたが、元々先読みをし、適切なジャッジを下す行為はAIやコンピューターの得意分野。それは当然のこと。だが、人間同士だからこそ面白いのだ。単純にAIがすごい! と言うのでなく、著者は人間の尊さを五輪における100メートル走やマラソンという花形競技に見いだす。

〈その魅力は失われていません。なぜなら、人間が身体的な限界に挑む姿には、特有の美しさがあるからです〉

 AIに脅威を感じている人、AIをより活用したい人両方にとってガイドとなる本だ。 ★★★

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