「本を書く技術 取材・構成・表現」石井光太著/文藝春秋(選者:佐藤優)

公開日: 更新日:

なによりも「読書量」と「執筆量」だ

「本を書く技術 取材・構成・表現」石井光太著/文藝春秋

 ノンフィクション文学の第一人者である石井光太氏による書くことを中心とする表現活動についての優れた指南書だ。本書で扱われている内容はジャーナリストや作家など書く仕事に従事する人だけでなく、広範な教養を身に付けたいと思う人にも役立つ。

 良い文章を書く秘訣について石井氏はこう述べる。

<原稿執筆を生業としたい人にとって、「どうすれば上手な文章を書けるか」というのは永遠の課題だ。/スポーツの世界でもそうだが、活字の世界でプロとして食べていきたければ、それなりの勉強と訓練が必要となる。私は学生時代から今に至るまで、本を月に最低30冊は読んでいるし、毎日数千字の文章を書いてきたが、プロならごく当たり前のことだ。/文章の熟練度は、読書量、執筆量に比例する。私自身を振り返っても、デビューしたばかりの頃は、敬愛する作家の影響を受けて修辞技法にこだわって、描写が過剰になりがちだった。ただ、5年目くらいにはそれが薄まり、10年目くらいには新たな文体が生まれた。15年目くらいには、テーマによって複数の文体を書き分けられるようになった。/文章スキルを磨くのに遅いということはない。成長するには、「真剣に本を読んで書く」ということを日々淡々とやりつづけていくだけだ>

 石井氏は、「文章の熟練度は、読書量、執筆量に比例する」と指摘するが、評者の経験に照らしてもその通りと思う。

 特に重要なのが読書量だ。他の手段(面談、テレビやインターネットなど)と比べて、書籍の方が正確な情報を安価かつ短時間で入手できる。

 また、書かないと文章は上達しない。評者の場合、外務省時代から公電(公務で用いる電報)を毎日、何本も書いていた。しかも公電は、大使・総領事と外務大臣の間でやりとりされる。従って、外務省の職員は、外務大臣か大使・総領事のゴーストライターとして文章を書く訓練を受ける。他人の気持ちになりながら公電を書いた経験が、職業作家になってから多様な読者を想定しながら文章を書く訓練になった。いずれにせよ「真剣に読んで書く」ことが教養を身に付けるための王道だ。 

★★★

(2024年10月18日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」