著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「うしろの百太郎」(全8巻)つのだじろう作

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「うしろの百太郎」(全8巻)つのだじろう作

 先日、漫画家の板垣恵介さんと話したのだが、つのだじろう先生ほど日本の夜を明るくした人はいないのではないか。

 つのだ先生はオカルトを描いたのにどうして国が明るくなるのかと不思議に思うだろう。

 私たち当時の子どもは怖すぎて明かりを消して眠れなくなったのだ。大きな電球もつけたまま寝たいがそれはさすがに親に怒られる。だからナツメ球といわれる小さな豆電球を子どもたちは消すことができなくなった。全国で数十万人どころか数百万人いたはずだ。ほかならぬ私もそうであった。日本の夜はあれ以来、ほかの諸外国より明るくなったのだ。

 ほかにも守護霊の存在を信じるようになり、コックリさんを信じるようになり、テレパシーでしゃべる犬の存在を信じるようになった。あの漫画のせいで、当時の子どもは世の中が怖いものだらけになってしまった。

「うしろの百太郎」の連載は1973年から76年。私が小学校2年生から小学校4年生のときだ。8歳年上の板垣さんは高校1年から高校3年ということになる。もう半世紀も前だ。しかし私も板垣さんもいまだにその恐怖から逃れられないでいる。

 じつは59歳になった今でも私は真っ暗な部屋で眠れず、ナツメ球をつけている。それから大きな木の根元に砂や土があるとそれを足で払って硬い土を剥き出しにする癖がある。これは「うしろの百太郎」に「古い巨樹の根元に砂を積んでおくと翌日、妖精の足跡がついている」と書いてあって、いまだに恐れているからだ。

 板垣さんは高校時代に百太郎に書いてあった先祖の霊を呼ぶ降霊術を1人でやり、そのときの注意書きとして書いてあった「先祖に何かひとつ誓いごとをたてて守らないと怖いことが起こる」というつのだ先生の言を信じ、いまだに「ゴミのポイ捨ては一生しません」という約束を守っているらしい。

 板垣恵介と増田俊也という読者からするとどちらかといえば強面(こわもて)のクリエーター2人を半世紀もビビらせているのだから、この作品の恐怖度がわかると思う。

 一流作品の本質がここにある。目の前にないフィクションなのに、人生を変えるほどの力を持つ。

 かつて昭和と平成の漫画にはこういう作品がたくさんあった。若手の奮起を望みたい。

(講談社 461円)

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