「天がたり」麻宮好著
「天がたり」麻宮好著
長屋に暮らす10歳の心太は、かつて父がつくったみくじ筒を持って、毎日永代橋のたもとに立つ。道行く人に辻占い売りをして、日銭を稼いでいるのだ。ある日、黒染めの法衣を着た坊主に「おまえは死んだ父親と母親に会いたいのだろう。連れて行ってやる」と言われ、一緒に橋を渡った。するとそこは、あの世とこの世の境目で、舟に乗ろうとする大勢の死者たちがいた。両親には会えなかったが、翌日から心太は、黒法衣の坊主--鬼心和尚が「明日からおまえの目が変わる」と言った通り、幽霊が見えるようになる。
40年も“この世”にいて生前を忘れてしまったという侍・鏡や、先読みができるおみねら幽霊たちに助けられ、心太の辻占いは「当たる」と評判になっていく。そんな中、長屋の権助爺さんの亡骸に、他の霊が入り込んだ。一体誰が何の理由で入ったのか。心太は鬼心和尚と共に化け物に対峙する。
死者が見える少年・心太が、この世にとどまる幽霊たちとつながりを持ち、助け助けられる人情時代小説。だが心太が関わるのは幽霊だけではない。残された者の未練をすくい、死者とつながったとき小さな奇跡が起き、やがて両者が救われていく。見えない世界を優しく描いた心温まる物語だ。 (講談社 2365円)