「金沢浅野川雨情」城山真一著
「金沢浅野川雨情」城山真一著
金沢・ひがし茶屋街で人気だった芸妓、なつ江が殺されたところから物語は始まる。
丈弘の実家である水引細工の店に、以前、取材に来た石川日報文化部の記者・小豆沢玲子が突如、訪ねてきた。従業員の朋代に「昨日、東山2丁目緑地で40代くらいの女性と一緒にいなかったか」と聞いていると、店主で母の房子が「昨日の事件を調べてるのかい」と口をはさむ。房子は商店組合の事務局長・島田から早くも情報を得ていたのだ。朋代と交際をしている丈弘は、こっそり東山2丁目緑地を訪れたところ、朋代の過去を知り動揺する。そこへ小豆沢が現れ、丈弘が見逃したもうひとつの真実を指摘。小豆沢は記者を辞め、金沢東部警察署の刑事になっていた──。
前半は老舗料亭の料理長、贔屓にしていた和菓子店の店主、友人で老人ホームの女経営者ら、なつ江と親しかった人物たちの物語を通してなつ江の人となりと足取りを浮かび上がらせ、後半ではなつ江が「金澤をどり」で踊ることになっていた「浅野川雨情」にまつわる複雑な人間関係を、いずれも小豆沢がひもとき核心に迫っていく。
圧巻はラストの「金澤をどり」の場面。万来の観客が見守る中、琴の旋律が立ち上がり、なつ江の代わりを務める美すずが舞うさまに胸が熱くなる。
金沢の文化や風習を下敷きに、不思議な魅力を持つ小豆沢が活躍する新たな刑事小説だ。
(光文社 2420円)