「情熱」桜木紫乃著

公開日: 更新日:

「情熱」桜木紫乃著

 報道カメラマンの牧村は早期退職と離婚とで東京を引き払い、2年前に故郷・北海道に戻ってきた。

 ある日、広告撮影の現場でスタイリストの二葉と再会。高校3年の3月に別れて以来、40年ぶりだった。予備校仲間であり、文通相手でもあった二葉と気持ちが通じ合っていると信じていた牧村は、東京へ出る前に二葉の母親に交際許可を切り出した。だが二葉は──。

 二葉に40年前のことをわびられたときは、昔と同じ恥ずかしさに包まれたが、一緒に仕事をするようになると不思議とコンビという立ち位置からは1ミリも動かなかった。二葉の事務所の壁には「ジャッカロープ」が飾られていた。かつて二葉を励ましたように「兎に角──やってみろ」と牧村にほほ笑む。

 男女の機微を丁寧に紡ぐ著者の最新刊は、大人の「情熱」と「分別」のあわいを描く6編の短編集だ。

 登場人物は老人ホストの男性、妻と死別した男性に惹かれる司法関係の女性など中高年で、器用に生きる術を持っている。その器用さで自分の気持ちに蓋をしているが、ふと気がついたとき、彼らは戸惑うのだ。十分な言い訳を自分に用意して、一歩踏み出そうとする彼らの姿がじんわり胸に迫る大人の恋愛小説。 (集英社 1815円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の三振激減がドジャース打者陣の意識も変える…史上初ワールドシリーズ連覇の好材料に

  2. 2

    国民民主党から問題議員が続出する根源…かつての維新をしのぐ“不祥事のデパート”に

  3. 3

    党勢拡大の参政党「スタッフ募集」に高い壁…供給源のはずの自民落選議員秘書も「やりたくない」と避けるワケ

  4. 4

    「ロケ中、お尻ナデナデは当たり前」…「アメトーーク!」の過去回で明かされたセクハラの現場

  5. 5

    注目の投手3人…健大高崎158km石垣、山梨学院194cm菰田陽生、沖縄尚学・末吉良丞の“ガチ評価”は?

  1. 6

    夏の甲子園V候補はなぜ早々と散ったのか...1年通じた過密日程 識者は「春季大会廃止」に言及

  2. 7

    コカ・コーラ自販機事業に立ちはだかる前途多難…巨額減損処理で赤字転落

  3. 8

    巨人・坂本勇人に迫る「引退」の足音…“外様”の田中将大は起死回生、来季へ延命か

  4. 9

    高市早苗氏の“戦意”を打ち砕く…多くの国民からの「石破辞めるな」と自民党内にそびえる「3つの壁」

  5. 10

    「U18代表に選ぶべきか、否か」…甲子園大会の裏で最後までモメた“あの投手”の処遇