水をめぐる危機

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「なぜ人口が減っても水はきれいにならないのか?」武田育郎著

 きれいな水を当たり前と思うニッポン人。しかし水はいま危機のせとぎわ!?



「なぜ人口が減っても水はきれいにならないのか?」武田育郎著

 少子高齢化のニッポン。いいことなどなさそうだが、唯一、環境汚染だけは減るだろう。と思ったらこの書名。え? 水はきれいにならないの?

 その答えを出す本書の著者は京都大学の水質水文学者。「水文学」というのは初めて聞くが、「すいもんがく」と読む。地球上の水分の循環を研究する学問だ。著者は学生時代から湖や川の水をくんで水質の研究をしてきた。水質は「高い低い」で表す。「水質が高い」はいいことのように聞こえるが、実は上水・工業用水などに溶け込んだ窒素、リン、有機物汚濁指標などの濃度が高いことを指す。水質汚染というと、生活排水問題が連想されるが、実は人口が減って生活排水が少なくなっても水質は必ずしも低くならない。

 たとえば琵琶湖と宍道湖の周辺では後者のほうが人口減少は明らかだが、水質はむしろ高い。学生時代から著者が定期的に調査する島根県の斐伊川も同様。水田の施肥量も減っているのに、だ。実は水田には水をきれいにする性質もある。要は水の流れなのだ。大学の大教室で学生たちに「トイレの水まで飲料レベルの水が必要か」と議論させるなど、読みやすいコラムもあって親しめる構成だ。 (京都大学学術出版会 2420円)

「水の戦争」橋本淳司著

「水の戦争」橋本淳司著

 水の豊かな日本では気づかれにくいが、世界では水資源の奪い合いが日常。最近では気候変動の影響で干ばつや洪水が従来とは違うパターンで発生するなど、危険度も増加している。国連事務総長が警告し、地政学リスクを専門にするシンクタンクが「水問題の逼迫」を課題に掲げるなど状況は悪化しつつあるのだ。

 いま懸念されるのが、デジタル化にともなって急速に世界中で問題になっている大型データセンターの建設。産業過疎地は誘致に必死だが、実はデータセンターは大量の冷却水を必要とする。しかも使用された水は蒸発してしまうので循環使用ができない。人口減少に悩む産業過疎地に大型データセンターができると、地元住民の生活用水が圧迫されるという問題など予期せぬリスクが高まったりするのだ。

 水問題の解決策として前世紀に多用された大型ダムも、実は環境破壊と背中合わせ。有名なアメリカのフーバーダムも灌漑農業に利便を提供したが、逆に土地の塩害という深刻な副作用をもたらした。エジプトのアスワン・ハイ・ダムもエジプトの経済的自立と愛国心を高めたが、資金を得るためにスエズ運河を国有化したことで第2次中東戦争が起こった。因果はめぐる。人の世は愚かさと紙一重なのだ。 (文藝春秋 990円)

「トコトンやさしい水質保全の本」高堂彰二、大岩敏男著

「トコトンやさしい水質保全の本」高堂彰二、大岩敏男著

「水の惑星」と呼ばれるほど水資源の豊富な地球だが、実はその中で人間が利用しやすい水の量はけっして多くない。その割合はなんと0.01%。しかも地域によって豊富に使えるところとそうでないところが大きく分かれる。全体で97億人に上る地球の総人口のうち、22億人は安全に管理された飲み水がない。17億人は糞便などで汚染された飲料資源を利用するしかなく、1億1500万の人間が川や湖、用水路で飲料水を確保している。日本人は水と安全はタダと思っているなどと言われるが、世界規模では水はタダでないどころか、安心すらできるものではないのだ。

 本書は水質保全のイロハに始まり、水と健康や環境の関わり、水汚染の評価法、上下水道施設の水保全の実態などをわかりやすく解説する。一般には知られにくい水質関連の法律や水質に関するさまざまな課題と水質改善の具体策まで、幅広く紹介し、知識のない一般読者にもわかりやすい構成になっている。ペットボトルの屑などが海を汚染するマイクロプラスチック問題はやっと知られてきたが、地球温暖化による海洋の酸性化などはまだ知る人も少ないだろう。役立つ一冊。 (日刊工業新聞社 1980円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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