インドの鼻息
「インドの野心」石原孝、伊藤弘毅著
いつのまにか当たり前になった「大国インド」の存在感。その鼻息は止まらない!?
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「インドの野心」石原孝、伊藤弘毅著
いつごろからか一気に増えたインド料理屋から欧米大企業のCEOやセレブまで、いまやインドを見かけない日はない。本書は朝日新聞ニューデリー支局の記者2人の共著。いきなりマッチングアプリでの結婚話から始まるのが面白い。8割以上がお見合い婚という国柄ながらアプリで相手を探し、両親も巻き込んで結婚という事業に挑む様子はやはりIT大国。他方で摩天楼の先にはスラム街が広がり、貧富の格差は厳しいが、露店でチャイを買うにもキャッシュレスが普通という。国連の統計によればインドの人口は14億2500万人を超え、中国を抜いて世界一。ただしコロナ禍で国勢調査が延期されたため判断は推計だという。
公用語はなんと21もあり、ヒンディー語を話せない人も多い。離婚率は1%しかないというが、女性蔑視の習慣も根強く、陰に隠れる社会問題は多いだろう。インドといえば数学人材だが、著者の息子が通う現地校の教師によれば「日本人の多くはインド人の子どもより数学が得意」と返されたとか。むしろエリート層ではリーダーシップ教育が盛んで、これが国内外に豊富な人材を送り出す背景らしい。世情に通じた話題が多く、現代インドを知る手頃な入門書だ。
(朝日新聞出版 990円)
「教育超大国インド」松本陽著
「教育超大国インド」松本陽著
インドの首都ニューデリーで教育事業の会社を立ち上げた著者。国際空港の超近代都市ぶりに驚き、ガスマスクをしないといけないほどの大気汚染に目をむき、毎週大学が新設されるほどの教育熱にまたまた驚愕する。10代が通うエリート校では生徒たちが休み時間も延々勉強している姿が当たり前。というのも優秀な大学でIT工学の学位を得た学生には世界中のトップ企業から勧誘が届き、新卒の平均年収は2000万から3000万円、最高は約8000万円だというのだ。
GDPでもインドは日本を追い抜き、いまや世界4位。ちなみに1位アメリカ、2位中国、3位ドイツで日本は5位。人口も着々と増え続ける、ということは若者が多く、国全体が若い。
他方で入手難の品物を発注し、「大丈夫」とふたつ返事が返ってきても油断は禁物。無事に納品されたと思ったらまったく別のものが箱に入っていたなどという話が本当にあるらしい。
ある日本人駐在員によれば「インド人の『イエス』は、可能性に対する前向きな姿勢の表れ」だとか。
さまざまな企業で教育畑を歩んだという著者もびっくりのインド体験記。
(星海社 1430円)
「ビジネスパーソンなら絶対知っておきたい インド人との付き合い方」サチン・チョードリー著
「ビジネスパーソンなら絶対知っておきたい インド人との付き合い方」サチン・チョードリー著
テレビやYouTubeですっかりおなじみのインド人経営コンサルタントの著者。まず日本人の大半のインド知識は古いままという。たとえばインド人は牛肉を食べない話。たしかにヒンズー教では牛は聖なる動物。しかし50代以下の世代はふつうに牛肉を食す一方、ベジタリアンが全体の4割もいる。そんな日常の話題のほかにコンサルタントらしい話題も多数。
日本企業でよく聞く「お客さまのために」。しかしこれが目的化するとインドのビジネスでは失敗する。
むしろ欧米企業と同じく自社の利益を最大化することを優先し、結果として顧客を大事にするのが重要だ。また現地では日本流を押しつけず、インド人社員の管理や交渉もインド人の管理職を上手に使うのがコツという。ターバンを巻くのはシーク教徒だけという、当たり前の話もわかっていない日本人向けインド論。
(フォレスト出版 1980円)