「死体は語りだす」フィリップ・ボクソ著、神田順子訳
「死体は語りだす」フィリップ・ボクソ著、神田順子訳
数年前に、読書家の友人と優れたノンフィクション本について話したことがある。その中で「『ただのニュース記事になってない』本が良書だ」という結論が出た。事実をどう読み手に伝えさせるか、創作で生まれた小説より難しい技術が使われているなと感じるものもある。今回は最近読んだ海外ノンフィクションの中で特に書き手の経歴、そして文章のうまさが際立っていた本著を紹介しよう。
著者のフィリップ・ボクソはベルギーを代表する法医学者である。4000体以上の司法解剖を経験し、特に変わったケースや、心揺さぶられたエピソードを本著で紹介している。彼にとって処女作である本著はベルギー国内にとどまらず世界的な大ヒットを記録し、つい最近この日本でも邦訳化され上陸した。
ここまでヒットしている要因はいくつかある。まずは何といってもエピソードの強さだろう。死体を発見したので見てもらいたいと警察に呼ばれて現場に行ったらその死体が生き返った。飼い犬に手を噛まれたどころではなく手を丸ごと食べられていた死体。何もないところから急に体が燃え始める「人体発火現象」が起きたかのような真っ黒な死体、自分を拳銃で14回も撃った男。なぜこんなことが起きたのか、すべての「理由」を著者は鮮やかに解決していく。事案そのものも興味深いが著者の友人であり、捜査協力する面々もなかなかキャラが濃い。弾道の専門家でとんでもない酒好きのジャン・ジャマール。死体の周りの虫のエキスパートで200万匹のハエやそのほかの虫をコレクションしていた法医昆虫学の権威マルセル・ルクレルク。この2人も著者に負けじとドラマに出てきそうな人物でワクワクする。
散々引き合いにテレビドラマを出したが、実際の現場とドラマの違いについても触れられている。本当にリアルなドラマにするなら法医学者は現場では不織布のダサいオーバーオールを着てなければいけないらしい。
全編通してユーモアがあり読みやすいのが特徴だが死に対する真剣さも伝わってくるのがグッとくる。
ベルギーといえばチョコとワッフルが名物のイメージだが名物級に凄い法医学者もいるのだとアップデートされた一冊だった。 (三笠書房 2200円)



















