鈴木唯人〈前編〉「どうしても…」と2度の保留にへこたれなかった男の素顔(市船橋高元監督・朝岡隆蔵)

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MF鈴木唯人(ドイツ1部フライブルグ/24歳)

 3月の英遠征ではスコットランド戦、イングランド戦ともにプレー。森保一監督からの評価急上昇中の鈴木唯人は、高校サッカー界の名門・市立船橋高に進み、一気に頭角を現した経歴の持ち主だ。16日の欧州EL・セルタ戦で2ゴールを叩き込み、北中米W杯メンバー入りに向けて大きなアピールとなった。鈴木の「今」の礎となった市船時代を聞いた──。(今回はその【前編】)

  ◇  ◇  ◇

 ──市船入りの経緯は?

「実はスカウトではなく、向こうから『市船に行きたいから、練習に参加させてほしい』と熱意を示してきた選手なんです。葉山中の顧問の先生がもの凄く一生懸命な方で、人を介して連絡をいただいた形です」

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 ──15歳の鈴木選手は飛び抜けていましたか?

「いや、実はそうでもないんです(苦笑)。僕に見る目がなかったのか、返事を2回、保留しています。『悪くはないけど、もうひとつ、何かないのかな』というのが正直な感想でした。心を揺さぶるような強烈なインパクトは感じられなかったですね。同学年に畑大雅(シントトロイデン)や鷹啄トラビス(C大阪)がいましたけど、彼らは強さ、速さ、高さというハッキリとした特徴があった。それに比べると唯人は突出した武器を持ち合わせていない印象でした。うまいし、器用ではあるのですが、爆発的なものがないイメージ。僕自身がそういう選手を後回しにしがちなんですよね。今になると反省しかないです(笑)」

 ──最終的に入学を認めた要因は?

「面接ですね。『僕はどうしても市船に行きたい。市船が取ってくれなかったら、他のチームに行くしかないんです』と熱っぽく訴えて来たことが、今も脳裏に焼き付いています。そういう情熱のある子を他に行かせちゃいけないなと痛感しました。それに3度も練習参加しに来ること自体、滅多にない。2回保留されたら今どきの子は諦めますし、指導者も『やめとけ』と言うでしょう。それでも唯人は強い意思を持って市船に来てくれた。そういうこだわりや粘り強さは彼の凄さだと思います」

 ──海外キャリアを見ても欧州5大リーグのフランス1部から北欧デンマークへ赴き、回り道を経て今季からドイツ1部へ這い上がっています。

「そうですね。唯人がデンマークにいた頃、僕はジェフ千葉ユースを離れて中国で指導していたんですが、異国の不慣れな環境にかなり苦しんでいました。でも唯人は1人でタフに戦っていた。その芯の強さはさすがだなと思ったし、唯人みたいに逞しくなりたいと感じたくらいです」

 ──市船でも最初からスターだったわけではないんですよね。

「はい。高1の時はAチームに入っていませんでした。杉岡大暉(柏)や高宇洋(FC東京)にしてもそうですけど、市船からプロになった選手のほとんどが、1年からAチームでやっていました。でも、唯人は原(輝綺=名古屋)同様にBチームからのスタートだった。『センスは間違いないから、時間をかけて育てなきゃいけない選手だな』と感じていたのは確かです」

「突き抜けるほどの図々しさがなかった」

 ──高1の時の彼は?

「U-16リーグとか同い年の試合ではメチャクチャ点を取っていました。ライバル・流経とのゲームでもハットトリックを達成したことがあったと思います。でも上のチームに入れると(試合中に)消えてしまう。先輩たちの中でも、突き抜けるほどの図々しさがなかったように感じます」

 ──同期の畑選手はU-17日本代表入りし、2019年のU-17W杯(ブラジル)にも参戦しました。世界レベルを知る同期の存在は、大きな刺激になったでしょうね。

「それはあると思います。畑はもともと素材的に秀でており、高1夏の高校総体のメンバーにも入れていたので、唯人にしてみれば『負けられない』という気持ちにはなったと思います。トラビスもAには入っていなかったですし、2人で切磋琢磨しながら上を目指していたかもしれません。杉岡、高、金子大輝(磐田)、同期だった原にしてもBチームだったので負けじ魂を持って取り組み、2年から急成長しましたけど、やっぱり良い競争のある環境は重要です。それが市船のよさだとOBでもある僕は感じています」

 ──彼らのエピソードはありますか?

「僕が市船を離れた後の高校3年の時、あるミーティングの場でチームメイトやスタッフに対して唯人が感情をぶつけ合ったという話を耳にしました。僕が知る1~2年の唯人はそういうアクションを起こすタイプではなかったので、少し驚きました。そんなふうに堂々と意見をぶつけ合えるようになったのか、と嬉しく感じたくらいです」

 ──3年最後の高校サッカー選手権の2回戦で日章学園にPK負けした際、号泣する鈴木選手の姿を見たことがあります。

「僕が指導していた2年までは、敷かれたレールに何となく乗っていたのかな、と思いますが、最後の1年には賭けるものがあったんでしょうね。普段はあまり感情を表に出しませんけど、秘めた闘争心や負けん気の強さというのは誰よりもある。それが鈴木唯人という人間です。そういったメンタルの強さは高校生の頃から持ち合わせていましたし、それがプロになってからの急成長につながったのかなと感じます」(【後編】につづく)

(聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト、絹見誠司/日刊ゲンダイ)

▽すずき・ゆいと 2001年10月25日生まれ。24歳。神奈川・葉山町出身。地元中学から市立船橋髙に進み、3年次に背番号10をつけた。2000年からJ清水。フランス・ストラスブール、デンマーク・ブレンビーを経て2025年5月にドイツ・フラウブルグ入り。主軸としてプレーしている。2024年6月に日本代表デビュー。身長175cm・体重71kg。

▽あさおか・りゅうぞう 1976年6月21日生まれ。49歳。千葉市出身。市立船橋高3年で高校サッカー選手権優勝。日大卒業後に教員として市立船橋高に赴任。サッカー部コーチを経て2011年に監督。就任1年目の選手権を制した。高校総体2度優勝。2019年にJ千葉U18の監督に就任。2024年4月から福島・ふたば未来学園高サッカー部の監督。

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