各地の豊かな混交林の再生をたどるドキュメンタリー

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「森に聴く」

 古い映画はタイムマシンだと言った人がいる。昔の映画のロケ撮影の場面には、いまでは消えた町並みや風景が写って、見る者をつかのま過去に連れ戻してくれるのだ。

 先週末封切りの「森に聴く」にも山上徹二郎監督の似た体験が出てくる。かつて自身が製作した劇映画は熊本県人吉での少年時代を材にした話。ところがロケ撮影した故郷の村は6年前の球磨川氾濫で水没した。いまでは生きた森の姿は映像の中だけの幻だ。

「森に聴く」はこんなエピソードから再生へと向かうドキュメンタリー。といっても災害復興の話ではなく、かつて日本全国に広がっていたはずの豊かな混交林の再生をたどる旅の話である。

 昔はいまのような花粉症はなかったといわれるが、これは戦後に針葉樹のスギやヒノキ林ばかりを拡大する国家的な植林政策のせい。おかげで根がからみあって保水力を高める昔ながらの混交林が激減し、水害も起こりやすくなってしまった。

 本作はこの現状を過去の取材映像も活用しながら改めて問題提起する。といってもしかつめらしい説教くささはない。とつとつと語る監督自身のナレーションと、樹木や昆虫の専門研究者らが森の中で働く姿にじっくり付き合う映像が、まるで“脳内オゾン”のようにおだやかな活力を吹きこんでくれるのである。

 清和研二著「スギと広葉樹の混交林」(農山漁村文化協会 2750円)は映画に登場する林学者による混交林再生の解説書。日本の里山が針葉樹林の平板な風景に堕したという嘆きは、映画でも秩父の民宿の主人が30年前に同じことを語っている。森の衰退は国策もさりながら、われわれ一般の認識の低さにも起因するだろう。監督と同郷の前山光則著「ふるさと球磨川放浪記」(弦書房 2310円)のおっとりした語りこそ、森が育んだものに違いない。 〈生井英考〉

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