伝説のジャズマンをめぐる意外なドキュメンタリー

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「カウント・ベイシー」

 カンザスシティーはジャズの歴史では別格の都市。シカゴやニューヨークと並び称され、特にスウィングでは聖地とされる。

 その街の生んだ最大のジャズマンがカウント・ベイシー。ニュージャージー生まれの若いピアノ弾きがカンザスシティーでビッグバンドを率いる機会を得、デューク(公爵)・エリントンの向こうを張るカウント(伯爵)を名乗って「ジャンプ・キング・オブ・スウィング」と呼ばれたのである。

 今週末封切りの「カウント・ベイシー」はこの伝説の人をめぐる意外なドキュメンタリー。実は彼の娘は先天性の脳性まひで発話も歩行も不全。ベイシーは妻とともに愛情と忍耐で娘を育てる一方、私生活は秘して語らなかった。

 芸人は売れっ子になると年間の8割は旅暮らし。楽団メンバーは全員専用バスで移動する家族同然の仲。それでもベイシーは団員に私的な話はせず、家庭でも楽団でもよき父でありつづけた。

 ジェレミー・マー監督の描く温厚な苦労人のベイシー像に対して、彼を「シャイで粋でドスが効い」た親分(チーフ)と呼んだのは岩手・一関のジャズ喫茶「ベイシー」店主の菅原正二。幾多のエッセー集で楽しく回想する横顔はさながら清水の次郎長だが、ここではまったく違った観点でデーヴィッド・W・ストウ著「スウィング ビッグバンドのジャズとアメリカの文化」(湯川新訳 法政大学出版局 5170円)を紹介したい。

 スウィングジャズの流行は白人が黒人文化由来の音楽になじむ機会となり、現代的な音楽産業の成立を促した。ベニー・グッドマンら白人リーダーの楽団との競合や引き抜き、差別丸出しのレコード会社の思惑でジャズが「植民地化」されたという近年の解釈にも丁寧に目を配り、「スウィングが代表する新しい国民的文化」の複雑な顔に光を当てた労作である。 〈生井英考〉

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