菊之助は大役抜擢 歌舞伎座で「重鎮vs若手」ガチンコ対決
夜の部の「吉野川」は、日本版「ロミオとジュリエット」といわれている、反目し合う家に生まれた男女の悲劇だ。吉右衛門と坂東玉三郎がその両家の親で、染五郎は吉右衛門の息子、菊之助は玉三郎演じる母の娘という配役だ。
玉三郎は子がいないこともあり、最近は門閥にとらわれずさまざまな若手と共演して芸を伝えようとしており、今月も吉右衛門の相手役を勤めるのと同時に、若い女形たちに芸を伝える役も担った。今回の「吉野川」は将来、吉右衛門が演じた役を染五郎が、玉三郎が演じた役を菊之助が勤める日のための実地教育なのだ。若い2人は自分の与えられた役を演じつつ、吉右衛門と玉三郎の芸も脳裏に焼き付けなければならない。吉右衛門と玉三郎は、次世代に手本を示すためには、自分が最高のものを見せなければならない。それを意識した共演は、すさまじい「競演」となり、見ごたえのある舞台になった。当然、若い2人も必死だ。
興行として一級品であることと、教育・伝承の場であることを両立させる――歌舞伎の底力を感じさせる公演だ。
(作家・中川右介)