夫がゲイの能町みね子さん 恋愛感情ナシの結婚生活は快適

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「恋愛には終わりがある。だから私は、恋愛関係になる可能性がない人と結婚しました」――。恋愛結婚をした人には信じられない話だが、果たして本当に幸せなのだろうか? 「結婚の奴」(平凡社)で新しい結婚観を提示した能町みね子さん(40)に聞いた。

  ◇   ◇   ◇

 能町さんが「夫(仮)」と呼ぶ相手は、ゲイライターのサムソン高橋さん(52)。2016年に“結婚生活”をスタートさせ、一つ屋根の下で快適に暮らしているというが、能町さんは、もともと恋愛感情が湧きにくい非恋愛体質で、そのことにコンプレックスを抱いていたという。

「みんなが普通に恋愛を楽しんでいるのが純粋に羨ましかった。それと同時に、自分は没頭できない不条理さに腹が立っていたんです。よく失恋のショックで何も食べれなくなると聞くけれど、そういう経験は一切なし。恋愛感情なるもので食が細くなることは皆無でした(苦笑い)」

 それでも結婚に対する憧れは人一倍あった。世間的な常識に対し保守的だと自認している。

「伝統文化である相撲が好きなのもそうなのかなぁと。結婚も子孫存続と繁栄、家と家の結びつきを重んじた文化的な側面は嫌いじゃない。でも、その古臭さが非常に嫌でもある。私のようにわざわざSNSで結婚宣言したり、エッセイのネタにする必要はありませんが、そうでもしないと、自分の性格や性質を考えたら踏ん切りがつかなかった。結婚することで自分の中の古臭い固定概念をひっかきまわしたかったんです」

 パートナーと情熱的に愛を誓い合うのが無理ならば、端から恋愛なんてしなければいい――。「脱・恋愛」で見事、理想の生活を手にした能町さんは、新しい結婚のあり方としてこんな提案をする。

「世間でいう女性の幸せは、いまだに『好きな人と結婚する』という考えが多いですよね。けれど私のように恋愛の過程で躓いてしまう人は、開き直って、人生を効率よく快適に生きるための一つの手段として『脱・恋愛』からの結婚を考えてもいいのではないでしょうか。恋愛が苦手な人間は無理してする必要はないと思うんです」

■「人生の節目」

 一人暮らしのときは精神的に不安定になると仕事がはかどらず、部屋も汚くなる悪循環があったという。もちろん、問題や悩みがすべて消えたわけではないが、夫との同居生活でこれまで感じていたモヤモヤとした生活ストレスからは多少なりとも解放された。能町さんにとってあらためて結婚とは?

「『人生の節目』ですね。大学を卒業し、就職して以降、区切りがなかった私のダラダラとした人生に"一本の線引き"ができた。保守的な性分には大事なことでした」

恋愛から結婚までの過程が複雑

 結婚は墓場だともいうが、寂しい独身者を救うかもしれない。というのも、人の気持ちは流動的だから恋愛は思っている以上に難しい。記者もそうだが、恋愛に苦手意識を持っていたり、パートナーが見つからないため結婚しない(できない)人は少なくない。能町さんが「脱・恋愛」して辿りついた合理的な結婚生活は、日本の未婚率の改善に繋がるのではないか。

「みんなが『脱・恋愛』できるかどうかですよね。恋愛のイデオロギーに縛られて、そのプロセスを経ないと結婚できないことになっているからハードルが上がってしまう。もっと気楽に考えて、籍を入れようが入れまいが関係なく、同居して生活していたら家族とみなしてもいいと思うんです。結婚にわざわざ永遠に続く愛情を盛り込む必要があるのでしょうか? もちろん、恋愛結婚を否定するつもりはないですが」

 能町さんの脱・恋愛の相手は、フケ専デブ専(太った中高年が好き)の同性愛者である。能町さんは明らかに“対象外”だ。

「以前からアキラ(サムソン氏の本名)は私の作品のファンでいてくれていたようなのですが、私との結婚に同意してくれた真意は分かりません。ただ私の場合は、同居する相手の人間性が好きなことや、価値観の近さは前提としてあるものの、それが女性だと相手が結局誰かとくっついて私との関係が続かなくなる不安があるんです。ノンケ(異性愛者)の男性も万が一、恋愛に発展でもしたら、その感情が失せた途端、心穏やかな結婚生活は終わってしまう。ゲイで、特定の恋愛対象を持たなそうなタイプがいいのではないかという思いに至りました」

 やはり、目的の明確化がキモということか……。

「嫌いなものが一致するとか、お互い黙っていても大丈夫な関係性というのも、私の場合は必要不可欠な要素でした」

世間の結婚に対するイメージを変えたい

 能町さんは戸籍上は独身のままである。もちろん、法的に結婚することも考えたが、サムソン高橋さんがそのことについては積極的でなかったため、婚姻届の提出にはこだわっていない。あくまで目的は、怠情になりがちだった一人暮らしに終止符を打ちたかったのと、世間の結婚に対するイメージを覆すこと。だからこそ、入籍以上に違う価値観や立場をすり合わせる作業が大切だというが、「理想はお互いに何も求めない関係性がベスト。お互いがお互いのペットみたいな感じが一番いい。ペットは何かを求める存在ではなく、ただそばに居てくれるだけで癒やされますよね。お互いに見返りを求め合わないほうがうまくいくと思います」。

 大小の嵐やトラブルに見舞われながらも、“結婚生活”をスタートさせて3年目になる。終始、ザックバランに話してくれた能町さんだったが、最後に「幸せなのかなぁ、一応……」と自信なさげに呟いた。

 その心は?

「“幸せになってつまらない人間になったといわれたい”などと『結婚の奴』にも書いたのですが、私にとって今がベストの状態だと言い切れるかといえば不安もあります。それでも後悔はないし、これまでの人生の中で最も心穏やかな瞬間を感じることは多いですね」

 最近は念願だったネコも一緒に暮らし始めた。今後も“3人の暮らし”から目が離せない。

(聞き手=白井杏奈/日刊ゲンダイ)

▽のうまち・みねこ 1979年、北海道生まれの茨城県育ち。文筆業。2006年、イラストエッセー「オカマだけどOLやってます。完全版 (文春文庫)」(竹書房)でデビュー。著書に「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)、「私以外みんな不潔」(幻冬舎)などがある。

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