著者のコラム一覧
井筒和幸映画監督

1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。

今も世界中が「格差と貧困」にもがいている 我が“新作”も

公開日: 更新日:

 映画賞をとったら、それこそ新型ウイルス感染みたいに、1年に1回ぐらいしか映画館に行かないその辺のおっちゃんでも見に行ってしまう。はやりモノはそんなものだが、それにしても、韓国製「パラサイト」は全く食いつけなかったんだな。

 見ても感染できない、入り込めないでいるのはオレだけかと思って映画関係者に聞いたら「まさに今のアメリカ社会も抱える『格差と貧困』の脇や足の裏をくすぐって描いたら文句なく賞がもらえるんだし、よくよくアメリカのリベラル派映画人らの脳内に向けて見せた、賞取り出来レースですよ」とも言われた。

 確かに、現代映画界で「格差と貧困」は世界共通のテーマだ。そして、先日、えげつなく恐ろしいドイツ映画を見てしまい、たちどころに感染してしまった。英国アカデミー賞をもらった怪優ホアキン・フェニックスが、食えない芸人の端くれになりきった「ジョーカー」の変態度などぶっ飛んでしまうぐらいむごかったのが「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」という“本物の”格差映画だ。

 70年代初めのハンブルクに実在した孤独すぎるこの連続殺人犯にとらわれて見入ってしまった。「パラサイト」なんぞより断然、面白い。こっちにこそアカデミー賞だろと思った。交通事故のせいで鼻が露骨に大きく歪んでて、猫背のまま貧民街をうろつき、最下層者しかいない安酒場で飲んだくれた掃除夫が主人公で、娼婦崩れのおばちゃんを狙っては自分の屋根裏部屋に連れ込んで強姦。気に障ったらすぐに絞殺して首や手足をノコギリで切断し、ビニールに包んで壁の奥の隙間にしまい込んでおく。ズボラな猟奇殺人鬼は4人の女を殺害し、終身刑に処される。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    農水省ゴリ押し「おこめ券」は完全失速…鈴木農相も「食料品全般に使える」とコメ高騰対策から逸脱の本末転倒

  3. 3

    TBS「ザ・ロイヤルファミリー」はロケ地巡礼も大盛り上がり

  4. 4

    維新の政権しがみつき戦略は破綻確実…定数削減を「改革のセンターピン」とイキった吉村代表ダサすぎる発言後退

  5. 5

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  1. 6

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  2. 7

    粗品「THE W」での“爆弾発言”が物議…「1秒も面白くなかった」「レベルの低い大会だった」「間違ったお笑い」

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  5. 10

    巨人阿部監督の“育成放棄宣言”に選手とファン絶望…ベテラン偏重、補強優先はもうウンザリ