井筒和幸
著者のコラム一覧
井筒和幸映画監督

1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。

一律給付さえない駆け出しの俳優たちよ、はらわたが煮えくり返る思いも演技で曝け出せ

公開日: 更新日:

 先日、知人が主催した俳優のための演技ワークショップで駆け出しの役者たちを前に、「演技とは何ぞや」と講演した。東京にはアルバイトしながら、俳優修業中の若者がほんとに多い。石を投げたらまじに当たるほどいる。地方から出てきた者が半数だが、誰もが俳優一本で生きられる日を夢見て食いしのいでいる。

 35人ほどの20代、30代に順に身の上をしゃべってもらい、今の悩みを聞いてみた。「俳優になれば自分と全く違う他人になれるし、気分も発散できると思ってやってます」という女子が多かった。でも、これが勘違いのもとで演技が会得できない理由だ。「それは違うよ。演じるというのはアカの他人になるんじゃなく、自分をそのまま表現することだよ」と言うと、皆一様に驚き、そしてうなずいていた。自分の人格と感情の一部分を、その役柄に合わせて選んで出せたら一人前だということを、今まで教わったことがなかったようだ。別の人格などつくれるわけがないのだし、サラッと自分を出せる自然さを「演技力」というのだと。

「アンタは幾つなんだ?」と聞くと、「55歳です、大学出てずっと弁護士してるんですが、何年か前にちょっと縁があって映画現場に呼ばれたのがきっかけでその後、何度か声がかかるようになって。他人に化けられる俳優業もいいなと思って」と言う中年もいた。弁護士と兼業とは前代未聞だったが、彼も勘違いしていた。「ヤクザに扮したつもりでも、誰かのモノマネでなく、自分のヤサグレな内面をさらっと出せたの?」と問うと、「いや、悪そうな顔をつくってやりました」と弁護士らしく正直に答えた。過去の喜怒哀楽の「感情の記憶」を思い起こし、その感情と感覚を再現してみせるのが、「演技」なんだと分かってほしかった。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗